第70話

 

あー、コタツを片付けた後に寒くなるのはホントやめてほしいんだよなぁ。


もう春なんだから、もうちょいあったかくなってくれなきゃ困る。


─ガチャ


んー、誰だ? 多分だけど蒼海か?


玄関まで歩いていく。


こんな朝から……いや、8時半過ぎてるしそこまででもないか。連休続きでどうにも感覚が狂うな。


「せんぱーい! おはようございます!」

「おう、おはよう。で、今日は連絡も無しにどうしたよ?」

「普通に忘れてました! ごめんなさい!」

「いや、別にいいけど……」


そーゆールールないし。


「あ、今日はお客さんも来てますよ」

「お客さん? 誰に?」

「私たち2人にです」


? どゆこと?


「あー、よく分からんが…待たせるのは失礼か」

「すごく驚くと思いますよ! 入ってくださーい!」


俺が驚くような客……マジで誰だ? 教授とかだったらある意味驚くが……。


玄関の扉を開けた蒼海がそのお客さんを招き入れる。


「失礼する」


そう言いながら入ってきたのは、頭からツノを生やした緑髪の高身長イケメン。


…………わぁ。


「『レギオン・エースター・ファフニル』だ。妹のフィーが世話になっているようだな」


お兄様来ちゃった。


どどどどどーすんの。



「お茶、何飲みます?」

「そうだな、紅茶はあるか? 好きなんだ」

「ありますよ。少し待っててくださいね!」

「感謝する」


いやよく普通に対応出来るな蒼海ぃ! こっちは緊張で体が上手く動かないんだぞ?


「……」

「……」


蒼海が紅茶を用意する音がやけに大きく感じる。


きまZ。……もう使ってるやついないか。


これこっちから話しかけなきゃいけないやつ? それとも蒼海を待った方がいいのか? 全然わからん。


「…山夏芽 大地、でいいのか?」

「! あ、自己紹介がまだでしたね。山夏芽 大地です」

「少し、話そうか。紅茶が出来るまでの間」

「あ、はい。お願いします」


自分で言っといて、お願いしますって何だよ。



まずは……そうだな、アレにするか。


「日本だったか? かなり小さくないか? 宇宙から見たこの国は」

「たしかにハイドラの基準ならそうかもしれませんけど、人間の感覚だと『日本って狭いなぁ』とか思ったことはないですね」

「……そういうものなのか」

「は、はい」


ふむ、理解はした。共感するには至らないがな。


……いや待て。もしやフィーが幼少の頃、『大きい』や『広い』と言うことが多かったのはそういうことなのか?


人間からハイドラの感覚になるまで、そこそこ掛かったみたいだな。


……あぁ、もう一つ。


「日本語…複雑過ぎないか?」

「それはそう…なんですけど、そーゆー割には上手いですよね? 今更ですけど」

「フィーに教えてもらったんだ、70年くらいにな」


当時は日本なんて知らなかったからな、フィーのオリジナルだと思っていた。


『妹が一生懸命考えた暗号なら』と、そこそこ力を入れて覚えたが……なるほどな。2000年分の複雑さ、というわけか。


「よく覚えてますね……」

「記憶力には自信がある方だ。特にフィーに関してはな。君もだろう?」

「もちろん、俺も星羅のお兄ちゃんですから」


◇◆


「どうぞー」

「感謝する」


やっとか! 1体1で会話すんの疲れる! 主に緊張で。


ちゃんと喋れてたか? 変なことは言ってないし、大丈夫…だろう! 多分。


「……美味い」

「ありがとうございます! これ星羅ちゃんも美味しいって言ってくれたんですよ〜! 兄弟だと味覚も似るんですね」

「フフッ、みたいだな」


うーん困った。ちょっとイケメンが過ぎるぞこのお兄様……。


「あーその、今日は何故ウチに?」

「たまたま天の川銀河ここの近くを通ったのでな。フィーが人間だった頃の事にいた星を知るのも面白そう、と思ったからだ」


間違いなくウチの妹の兄な性格してるわ。俺とは違うけど、星羅に似ている。特に動機が。


「それと、アレだ」

「アレ?」

「アレ、とは?」

「家族の挨拶、というヤツだな。一般的なものとは言えないがな」


家族……!? 異種族ぞ?!


「まぁ、驚くか。だが種族を超えて家族になる、というのは宇宙ではよくある事だぞ?」


え、そうなんだ。


…まぁエルフみたいな子いるし、有り得るか。コラボ配信出来るんだから家族にもなれるか。


「じゃあ……お兄様って呼んでいいですか?」

「真剣な表情で何聞いてんの蒼海???」


受け入れんの早過ぎない???


「別に構わない」

「いいんですか!?」

「ありがとうございますお兄様!」


えぇ? 俺がおかしいのか……?



結局、レギオンさんが帰るのは夕方になってからだった。


星羅の昔のアルバムを見たり、手土産のケーキを食べたり、みんなでゲームをしたりと……なんだか、意外にも普通の友人みたいな距離感になった。専用の連絡機も貰ったしな。


「今日は楽しかった」

「いえいえ、また来てください」

「私達はいつでも待ってます! あ、でも寿命の分は考慮してほしいです!」


…たしかに。


そう考えると、俺たちはイルカちゃん星羅よりも圧倒的に早く歳をとるんだよな……。


「……そうだな、一年に一度は来ることにしよう。なに、フィーは俺より高い頻度で来るさ。心配なら、俺が連れて来よう」

「いいんですか? レギオンさんだって暇じゃないのでは?」

「暇だぞ?」

「……そうですか」


これガチで暇なやつだ。


「ならお言葉に甘えさせていただきます! 今年の夏休みはイルカちゃんと海に…あ、でも配信もあるし……─」


遠慮ってもんを知らんのか? …これ前もやったな。


「…何かあったら連絡してくれ。いつでも対応する」

「ありがたい限りです、ホントに」

「最後に……これからもよろしく頼む。妹を」

「「はい!」」


レギオンさんは自分の船へと帰っていった。

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