第66話
青空の下、心地良いそよ風が私の髪を通り抜ける。
流れる川に跳ねる魚の音、それを狙う鳥達の鳴き声。
穏やかに時が流れていく今は、まさに『風情を感じる』っていうやつだな。
「ごろーん……」
「服汚れないか?」
「問題ないよー」
それはどっちの意味でだ? 汚れてもいいのか、それともすぐ綺麗な状態に戻せるのか。
……ま、本人が問題ないと言うならそれでいいか。
私は座るくらいでいい。
あ、鳥が魚捕まえた。
「ところで、今日はこんなところに来てどうしたんだ? 配信か?」
「ううん。配信じゃないよ」
「そうなのか? なんだか珍しいな」
「珍しいかなぁ?」
「私はそう思っただけだ」
基本的に配信を1番に考えているとばかり。
だが、そうか。たまには配信から離れることもあるのか。
流石のイルカさんでも、毎日のように配信していたら疲れるよな。
いくら好きでも限度は……ハイドラの限界というより、ネタの限界では……??
「……私が気にしたところで、か」
「?」
「なんでもない」
……私はイルカさんに何も返せていない。
最近は仕事もなくなり、ただただこの星で暮らす日々。
好きだぞ? こういう生活、私は。
いつの間にか隊長の雰囲気も変わり、毎日を楽しそうに過ごしている。……相変わらずスナイパーライフルのメンテナンスは続けているが。
ともかく…忙しなく働き精神が削れるようなことがないというのは、素晴らしい。
最初のうちは仕事をしないといけない、という強迫観念に囚われていたと思う。
今思えば、それは完全に『道具』の思考だったな。
自然と考えを変えるきっかけとなったイルカさんと、そんなイルカさんと出逢わせてくれたレギオン様には恩がある。
恩はあるが、それ以上に。
こちらの技術の上位互換を持つ存在にとって、私達を助ける
1度でも気になってしまうと、どうしても結論を出したくなる。
レギオン様ならワープ装置制作の手伝いなど、明確ではないが目的らしきモノはあった。
しかし、イルカさんの場合にぱっと思いつくのは配信くらいしかない。
決して疑っている訳では無い。ただの純粋な疑問。不思議に思う気持ち。
分からないままでいるのはなんとなく不快感があるが、かといって直接聞く勇気も機会もなく。
「…………ヴル゛ル゛ゥ……!!」
ね、寝言…? 寝息…?
……というか、こっちが色々考えてるのに全く意に介さないのは……なんというか、あれだな。馬鹿らしくなってくるじゃねぇか。
『普段からイルカちゃんが何も考えていないみたいじゃないですか』と思うのも無理ねぇな。
「ぉにぃ…………」
……かわいいと、思った。
やっぱ何も考えていないっていうのもマジな気がする。
そうだな、配信のネタになりそうな事探してみるのも……悪くないか? そういう返し方しか私には出来なさそうだからな。
ま、今はもうちょいここにいるとするか。
後3時間くらいしたら探しに行くか。
◇◆
午後4時頃に出発し、現在06:24。
これでまだ170kmか……。
既に実行に移したことを少し後悔し始めてる。
そりゃそうだよな。イルカさんは毎日のようにこの星を飛び回っている中、私は走っているだけだし。
加えて、空と陸とは進みやすさが段違いなのもあるな。
今は森の中……いわゆる針葉樹林ってやつだ。+ブーツが埋まるくらいに積もった雪。なんでこっち方面に来たんだろう私は。
隊長とかヒバナ達みたいに空中歩行……いや、でもアレ容量でけぇ。ただでさえ自分の体を動かすのは得意じゃないっていうのに、アレ制御難しいからな……。普通に走った方が速いまである。
…………?
体に水滴……?
止まって辺りを見渡す。
…あぁ、なるほど。
急に出てきた、というよりかはいつの間にか霧の中に突っ込んでいたようだ。
霧……霧か。霧の発生する条件は……知らないな、うん。
というか、ものすごく見通しが悪いな!? これちゃんと見えるの100メートルくらいじゃないか!?
自然の脅威というのはすごいな……。
そういえば、こういう霧が日本の高速道路でもたまに発生するらしいが……平気なのか?
自分の状況より遠く離れた地の心配をしながらも、さらに霧の濃い方へ進んでいく。
視界が狭まっていく分に少しずつ不安感が増していくが、同時に期待感も高まっていく。
何かがあるのではないか、と。
その分何も無かった時の落胆ぶりは多分酷いことになるだろうけど。
ここからはゆっくりと歩くか。
◆
霧が濃くなるのに反比例するように、足元の雪は薄くなってきた。
薄い、とはいっても足首くらいまではあるが。
「……っ!」
あっ、ぶねぇ……!
残り1メートルまでしか足場が無い……。我ながらこの霧でよく気が付いて止まれたな。
それで、どうなっているんだ? これ。
崖……なのか? 霧で全く見えないし、わからん。
ただの段差という可能性の方が高いか?
ま、とりあえずだ。
足元から雪を集め、手で固めて氷にする。大きさは手に収まるサイズで。
そしたらギリギリの位置に立ち、足元で手を離して落とす。
─パチャン……
約1.26秒、7779ミリくらいか。
てか水の音だったな。
流れる音はしないから、川というわけではないな。
霧が晴れたら全容が分かるだろうし、座標だけ
今日は帰る。
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