第52話 正月3

 

「おいし〜!」

「うん、美味い…!」

「そうでしょう! このイカも美味しいですよ!」

「これがイカなのか!? どんな味なんだ…!?」

「あれ? どうしたの? もうお腹いっぱい?」


……。


「いや、そんなことないぞ」

「そう? じゃあこれ食べる?」

「中トロか。もらおうかな」


…あー、美味いわ。うん。


「織歌さん、これは?」

「あ、それはホタテっていう貝です!」

「貝も寿司にするのか…! ……美味い」

「私もホタテ食べたい!」

「はい、どうぞ星羅ちゃん!」

「ありがとね!」

「ウッッ…! 今の笑顔だけであと100年は生きられますぅ…! 星羅ちゃんがイルカちゃんでマジ神ぃ…!」

「寿命超えてんじゃねぇか。何年生きる気だよ」

「んー、200年?」

「軽々と人間の限界を超えるんじゃねぇ」


サーモン結構残ってるな。食べよ。


「あー! ちょっとお兄ちゃん! それ私が狙ってたやつ!」

「いいだろ別に。まだあるんだから」

「それ1番大きいやつじゃん! ずるいよー!」


1番大きいって言われてもな…。全部同じサイズじゃねぇのこれ?


「お前俺の分のエンガワ食べただろ? その分だと思え」

「やだー!」


いや子どもか。…ハイドラ基準だと子どもなのか?


「これはカレイか?」

「そうです。ミコちゃんよく知ってますね!」

「カレイは昔一度だけ食べたことがあるんだ。みんなでお金を出しあって食べたあの味は忘れられない…!」

「思い出の味なんですねぇ……」

「あぁ…」

「へー……カレイおいしーね」

「普通に食えるのすげぇな」


右隣、蒼海。


正面、妹。


右前、ミコさん。


なんだこの状況?



時間は少し巻き戻る。具体的にはイルカちゃん達が初詣を終え、お昼ご飯を食べた後くらいに。


「うん、やっぱりいつもの服装が一番楽だな」

「だね」


着物からいつもの格好に着替え、横浜の海を右手に歩道を歩くふたり。人はいない。


「それじゃあ遊びに行こっか!」

「どこにだ?」

「それは秘密!」

「そうか、楽しみだな」


何故周りに誰もいないのか。それは住んでいる人が少ないという事に加え、元日だからだ。


「イルカさんは、今年1年の予定とかあるのか?」

「予定? うーん…特にないなぁ。そーゆーミコちゃんは予定とかあるの?」

「…いや、私もない」

「な、ないのね」

「…………こうやって誰かと一緒に舗装された道を歩く」

「?」

「私だけじゃなくて、アンドロイドのみんながこの幸せを味わうことが出来れば…」

「もっと幸せ?」

「あぁ。私は自然の中を歩くのも好きだが、大多数はこっちの方が好きなんだ」

「へぇー。……ここだよ!」

「…普通の家?」


ふたりが止まったのはある一軒家の前。表札には『山夏芽』とある。


─ピンポーン!


─ガチャ!


『…今行く』

「わかった!」


─ガチャ


「…知り合いか?」

「んー、ちょっとね。あ、きた」


扉が開き、青年が一人出てくる。山夏芽 大地だ。


「また来……スゥー……今度はふたりか……。こんにちは。あー、とりあえず玄関で待っててもらっていい…ですか?」

「こ、こんにちは。…イルカさん、どういうことだ?」

「まぁまぁ、詳しいことは後で話すよ」

「…わかった」


ふたりは玄関に入る。


『母さん、今ちょっとふたり友達が来たんだけど…』

『あらそうなの?』

『先輩友達いたんですか!?』

『お前俺のことなんだと思ってんだ』

『圧倒的ぼっち』

『うるせぇ。とにかく、ウチ入れていい?』

『いいわよ』

「──というわけで、上がってくれ」

「はーい!」

「お、お邪魔します」

『女の人の声!? 先輩一体誰を…………はあっ!? いやっ、えっ!?」


修羅場の予感。



それであれだ、予定外の来客…客? …とにかく、寿司の出前をちょっと多めに取ったんだった。


うん。改めて色々おかしいな?


蒼海はイルカちゃんのことを一発で星羅だって認識して、そのせいでテンションが振り切れることになった。俺は母さんから生暖かい目で見られた。


望んでこの状況を作ってないんだよ俺は…! そもそも蒼海の時点で微笑ましいものを見るような目だったから尚更困るわ。


てゆーかマジでお前らなんでウチ来たの? いやミコさんいるしお前らとか言っちゃいけねぇか。


あと、ナチュラルにお兄ちゃん呼びはちょっと…こう、なんか、困る。まだこっちは飲み込みきれてないんだぞ? なんか両親はもう受け入れてるから、ほぼ確実にイルカちゃんは星羅ってことなんだろうけど…。


「「ごちそうさまでした!」」


っと、全部食べ終わったか。


「ごちそうさまでした」


ミコさん礼儀正しいな。


「ごちそうさん」


……マグロ美味かったな。


「……」

「どうした?」

「っ、その…話したいことがあるから、この後いい?」

「いいぞ。俺も聞きたいことあるし、俺の部屋でいいか?」

「うん!」


さて、と。この前質問まとめたメモ用紙どこいったかな?


「ミコちゃんミコちゃん、アレどう思います?」

「そうだな……兄妹愛、だな」


聞こえてんぞ。



「その…実は…私、ドルフィン・ロースター・ファフニルはお兄ちゃんの妹の山夏芽やまかが 星羅せいらなの!」


……スゥー。


「…ナ、ナンダッテー!?」

「驚くのも無理はないよね……。でも、ホントなの! あの事故の後、私の魂は地球から遠く離れた銀河に引き寄せられたんだ。そこで私はハイドラとして生まれ変わって──」


もしかして、全部聞かなきゃダメなのか…?


判断ミスったぁ……。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る