第49話

 

宇宙というのは広大なもの。


銀河系それぞれで違いはあるが、多くの場合は惑星には誰もいない。


……そう、つまり誰もいないと思って寝ていたら誰かが近くで俺のことを見ているこの状況は、とても珍しい。


今いる惑星は荒野が9割を占めている。とても生命が産まれるような星とは思えないことから、あそこにいるのは別の星から来た者だろう。


前方3キロメートルほど、岩の影から顔だけを出してこちらを…観察でもしているのか?


…いや、口元が動いている。誰かと話しているのか?


……気になるな。


『ピエッ…! み、見られた!? …って全部の頭がこっち向いてるー!? 顔コワ!?』


─ギュン!!


「悪かったな」

「ギャァァァァァァ゛ァ゛ァ゛!!!!」


耳が長い……。エルフか?


魔素はそこそこありそうだ。服装は…荒野には向いていないな。


…この回路、通信回路か? …なるほど、魔術カメラか。


「た、食べないでくださいぃ…!」

「これは君が組んだのか?」

「…え? あ、いえ、えっと…買いました」

「そうか」


無駄な部分が多いから自作かと思ったのだが、違ったか。


「……あ、あのぉ」

「なんだ?」

「アッ、エト……ぼ、ぼくはアリスっていいます!」


……いろいろすごいなこいつ。


「…レギオン・エースター・ファフニルだ」

「……あのっ! も、もしかしてどこかの貴族だったりします…!?」


……貴族。


「何故そう思う?」

「な、名前がその…長かったので」

「……血は引いてる、とだけ言っておこう」

「あわわわ…」



「つまり、転送事故か」

「そうなんです…」


難儀なものだな。


話を聞いてつくづくそう思う。


おとなしくダークマターを使えばいいのに、魔素で低コスト化なんてするからこうなる。…やろうと思えば100%安全なものを作れはするが、手間が掛かるだろうな。


そして背中の上にいるアリス。遭難していただけあって少し軽い…ように感じる。種族的特徴もあるだろうから詳しくは分からないが。


「そこから配信するという考えに至った理由は?」

「えっとぉ…そのー……誰かが助けに来てくれるかも…みたいな?」


……。


「あ、もももちろん! レスキューとかそういうのに連絡はしましたよ! でも、どこも遠すぎて無理だって言われて……」


なんだそれは。


「そんなに離れているのか?」

「はい…。えっと…今見てる視聴者曰く、3000光年は離れてる位置にあるらしいです…」


…その程度で助けに行けないだと? 随分技術レベルが低い…俺たちのところが高いだけか。


「……ここの座標も分からないのか?」

「ごめんなさい…わからないです…。あ、あのっ!」

「…いいぞ」

「エッ…まだ何にも言ってませんけど…」

「どうにかして帰りたいんだろ? この先に俺の船がある。送ってやる」

「ほ、本当ですか!? あああありがとうございます!!」


…悪いやつではなさそうだからな。


「やった! やった!」


◆◇


「…この部屋、好きに使っていいぞ」

「な、な…!!」

「…聞いてるか?」

「ほ、本当にいいんですか…!?」


こ、こんなの私みたいな一般エルフが使っていい場所じゃないよぉ!


:なんだこの空間

:機械の中にいるみたいだ

:実際に宇宙船だし機械でいいのでは?

:ちゃんとソファーとか置いてるのね

:アリスにはこの部屋広すぎるでしょ


うん、めちゃくちゃ広くて落ち着かないよぉ! ぼく狭い一人部屋じゃないと無理ぃ…!


あ、なんか壁のモニターに書いてある…。


「セキュリティレベル…ゲストに設定…?」

「…ん? あぁ、表示消してなかったか」


…消えた。


「今のって…?」

「…そのままの意味だぞ? 勝手に入られて困る場所くらいある」

「あ、そ、そうですよね…」


そっか、船だもんね。エンジンルームとか、操縦室とかあるよね。


:関係者以外立ち入り禁止やね

:アリスが入ったら全部壊れそう

:植物が一切無いのなんかちょっと怖い

:わかる。落ち着けないよね

:私たちのアリスは別の意味で落ち着けない場所になってるけどねそこ


本当だよぉ! もっと狭い部屋でいいのにぃ!


「……食べ物を持ってくる」

「あ、ありがとうございます!」

「構わない」


─ウィーン


行っちゃった…。


:今のドアデカすぎ

:あれか、自動ドアってやつか

:知らねーの? 普通にどこにでもあるぞ?

:電気通ってない場所住みんでしょ(適当)

:そんな田舎から見てんのは草


「えっと……なんとかなりました!」


:見たらわかる

:一時はどうなるかと思ったよホントに

:食べられなくてよかったね

:あのドラゴンさんヤバくね?


「そ、それは私もちょっと思いました…! こんな船を持てるくらいのお金と力があるってことですよね…?」


多分この船今私とエースターさんしかいないはず。ひとりで動かしてここまで来るって相当だよね…?


:もしかして王族?

:そんなわけ…ないとは言いきれない

:いや、全然あるぞその可能性

:まぁとりあえずは助かってよかったよね


「は、はい! ご飯まで用意してくれるみたいで、頭が下がります!」



「あの、この飲み物…」

「珈琲だ」

「あ、えっと、このこーひー? なんかこう、いいですね!」


ちょっと苦いけど…。


:黒い飲み物見るの初めて

:美味しいんだそれ…

:人間の国でそういうの飲んだことあるわ

:語彙力銅ランクかよ


「……なるべく早く帰る理由、何かあるか?」

「エッ…ない、ですけど。私は帰れればいいので」

「そうか……」


な、何? え、なんか笑ってる?


「(地球では『お正月』というイベントがあるらしいからな…。その後でいいか)…二週間」

「え?」

「それが、3000光年先にある君の星に帰るまでの時間だ」


……本当に?


え、だって3000光年だよ?


「どうした? 食べないのか?」

「アッ、食べます。……おいしい」


なんの魚だろこれ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る