第48話

 

「明日は〜クリスマス〜♪」


朝から元気だなコイツ。人の家で騒ぐなよ。


…この時期の冷蔵庫本当に寒い。というか、普通に部屋が寒いんだわ。お茶飲むためにコタツ出るのが嫌になるレベルで。


「先輩ホント麦茶好きですよね」

「美味いからな」

「そですか」


……なんなんだろうな、この状況。


嫌ってわけではないんだが、なんていうのかな……うーん、わからん。


…まぁいいか。ゲームしよ。


テレビに…繋いだままだったか。


「え、先輩朝からゲームするんですか〜?」

「別にいいだろ。そんなこと言ったら、起きた瞬間からスマホ見るやつよりかはマシだと思う」

「確かにそうですけど〜せっかくクリスマスイブなんですし、外行きましょうよ〜」

「やめろくっつくな! 狭い!」


コントローラー動かしづらいんだよ!


「あと、今の外の気温何度だと思ってんだ?」

「15℃くらいですかね?」

「9度」

「9℃」

「そう、1桁。それでも外行くか?」

「…………………………行きましょう!」


随分葛藤したな。


「はぁ……。どこ行くよ?」

「いいんですか!? なら適当に街中回りましょう!」

「決めてねぇのかよ…。午後からでいいか? もうゲーム起動した後だし」

「えぇ!?」

「……これ2人プレイあるんだけど、やる?」

「やります!!」


声デカ。チョロ。


「反射で答えちゃいましたけど、これなんていうゲームですか?」

「ホバーライドリメイク。軽く20年くらい前のレースゲームをリメイクしたやつだ」

「へぇー。じゃあFF7みたいな感じですか?」

「待望のリメイク作品って意味なら大体そんなだな。操作方法はめっちゃ簡単で─」



「あー! あー! あぁぁぁ!!」

「うるさいぞー」

「先輩が私の取りたいアイテム全部とるからですよ!」

「それがレースゲームなんだから当たり前だろ?」

「手加減してくださいよぉ!」

「大丈夫だ。蒼海もすぐに強くなる」

「そういう問題じゃ─先輩今私のこと名前で呼びました? 呼びましたよね!? そう、呼びましたよ!」


……。


「呼んでないが?」

「よーびーまーしーたーよー!!」

「お、3つそろった」

「え何ですかそれ!? なんか他のマシンと明らかに見た目が、ってえぇぇぇ!? どこまで飛ぶんですかそれ!?」


そろそろ耳が痛くなってきた。声量落としてくれりゃあな…声自体は好きだし。恥ずい、やめよ。


「ほらいいのか? あと1分もないぞ?」

「あぁー!? 先輩大人気ないです!」

「ははは」



「あぁぁぁぁぁ……!」

「はい俺の勝ち。……ごめんて」


余裕で勝ったら拗ねた。


「つーん」

「口で言うかそれ?」


本気で拗ねてるわけじゃなさそうでよかった。


「むぅ…」

「わかったわかった。ちゃんとコツとか教えるから」

「これ協力モードとかないんですか?」

「あるぞ。…そっちやるか」

「やりましょう!」



「「勝ったぁ!」」

「やりましたね先輩!」

「やったな!」


いやー、ギリギリだったなホント。最後のアイテムにプラズマがこなかったら負けてた。


「…11時か。昼どうするよ?」

「お昼ご飯ですか? それならチキンでも食べに行きましょうよ!」

「チキンなら明日だろ。まだイブだぞ?」

「じゃあ……お寿司?」

「なんで??」


正月まで待てよ。


いやでもたしかに、クリスマスイブの昼って言われて思いつくものないけど。


去年なんだったかな……覚えてねー。


「…そういえば朝からお義母さん見てませんけど、どうしたんですか?」

「母さんなら、昨日から父さんと温泉旅行行ってる」

「……何日くらいですか?」

「明後日に帰ってくるって言ってたな」

「……クリスマス、大学生が、ふたりきり」

「……」

「……」


え、もしかして泊まる気?


それは──


「──ちょっと薬局行ってきます!」

「待て早まるな!」

「ない方がいいんですか!?」

「そうじゃねぇ!」

「じゃあ行ってきますね!!」

「ちょ待──」


─バンッ!


……頭にニトロでも詰まってんのか? それか寒さでやられたか。



「ただいまです! 買ってきましたよ!」

「おかえり。あと言わんでいい」

「あ、カルボナーラ」

「お前のには野菜多めに入れとくから」

「なんでですかぁ!?」

「そうしないと野菜食べないだろ? 野菜ジュースだけで栄養補給なんてしてるとな、糖分摂りすぎることになるんだよ。…それリビングに置くな」

「いいじゃないですか〜」


よくねぇよ。


「というか、私そんなに糖分摂ってますかね?」


あれ意外と入ってんだよなぁ。入ってないのもあるけど、コイツそれ飲まないし。不味いとか言って。


「普段からお菓子ばっか食ってるじゃん」

「でも私、昔から太ったことないですよ? ダイエットとかもしたことないですし」

「ダイエットに苦労する全ての女性から恨まれそうだな」

「苦労するんですねー。私は特に何もしてなくてもスタイル維持できますけど。学校のテストとかと同じで」

「いや敵に回す範囲広くないか?」


今の日本国民の半分以上は当てはまるぞ? なんなら世界の…3割くらいは敵に回したと思う。


「…よいしょ、早く食べましょう!」

「飲み物何がいい?」

「ミルクティーで!」

「……なんであるんだ」

「私が朝入れておきました!」

「準備がいいな。……こんなもんか。ほい、食べるか」

「いただきまーす!」

「いただきます」


…うん、ばっちりだな。



「寒い…」

「そうですね…!」

「…もう帰るか?」

「こんなにもお店って休みになるものなんですね。もう行くとこないですし、帰りましょうか。あとイルカちゃんの配信も見たいです!」

「……そんなに見たいのか」

「え〜もしかして嫉妬ですか〜?」

「ちげぇよ。あと、バス停そっちじゃなくてこっちの道から行けるぞ」

「え、そうなんですか?」

「……ほら」

「おー!」



朝だ。てことは、今日クリスマスか。


…………手紙? 誰…って鍵閉めてたから隣のコイツ以外にはありえな──


『宇宙のイルカさんより』


すっげぇ嫌な予感がする。


きょうはメリークリスマス!

のみものの用意はできてるかな?

うちゅうにはコーラはないけど、

はを磨くのは忘れてないよ!

お兄…大地くんはどうかな?

楽じゃないかもだけど、レポートは

しっかりとやろうね!

みんなやってると思うけど

でも冬休みだから、忘れちゃうのも

しょうがないのかな?

たぶん何人かは絶対にいるよね

ねんまつにはそっちに行くから待っててね

!!!


…………あ、なるほど。


「やかましいわ」

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