第40話 地球3

 

─この配信は終了しました─


「終わったか」

「うーん…」


あれ、絶対そうだよね〜…。


「……どうした? 朝の元気はどこに行った?」

「えっ? あ…心配しなくても大丈夫だよ。さて、1回船に戻ろっか!」

「……わかった」

「せーのっ─ほいっとね」


テレポートで船に移動。


計器を確認ー……問題なし!


「うっ…一瞬で場所が変わると感覚が狂いそうになる」

「でもこれ以外方法ないし」

「それは分かってるんだが、どうしてもな。……修正のためにもちょっと横になってくる」

「わかった。そのまま寝ちゃっても大丈夫だよ」

「じゃあそうするか。お休み」

「おやすみー」


─ウィーン


今の時間は…8時か。じゃあ夜ご飯はもう食べ終わって、今頃はテレビでも見てるかな? 日曜日のこの時間って何やってたっけ? また一緒にゲームできるかな?


……150年経っても未練タラタラじゃん、私。


自分が嫌になることなんてないけど、今の私を受け入れてくれるかな…? そもそも私だってわかるのかな…?


会いたい…けど、昔の私とは随分変わってしまった。むしろ変わってないものを数える方が難しい。


どうしよう。


私は一度死んでいる。それは覆すことの出来ない絶対的な事実。『実は他の星でドラゴンになってましたー!』なんて説明をしても、ふざけているようにしか見えないと思う。


その人の中で死んだ事になっている人が、それは自分だと説明する……うん、やっぱり相手にされる気がしない。


……とりあえず会うだけ会ってみよう。ドルフィン・ロースター・ファフニルとして。


妹として会わなければ、変にギクシャクしないはず。


「うん。よっし! そうと決まれば!」


もう1回テレポートだ!


◆◇


バスから降りてとぼとぼと夜道を歩く。


今日は本当に疲れたな……。何が悲しくて、12月のこの海風を感じてるんだ俺は。これも織歌のせいだな。


朝から電車で東京に行くとかホントマジで…。俺はコタツにいる方が好きなんだ。外に遊びに行くのは嫌いだ。


傍目から見る分にはデートにでもなるのか? アイツが見てるのは俺の妹だ。


……違うな、イルカさんだ。


おかしい。これじゃあ、俺がまるでイルカさんを妹だと思っている精神異常者じゃないか。本格的に精神科医の世話になる前に何とかしたい。やっぱ行くべきじゃなかったか?


他の星から来たドラゴンを星羅だと思うなんて、失礼だろ。どっちにも。……死んだ人間は帰ってこない。これでこの話は終わりだ。


…にしても、この辺りの街頭暗いな。最新のに交換した方がいいんじゃねぇかな? そんだけの金があるかは知らん。でも、ビルとかマンションが無いからって流石に削りすぎだと思う。


住宅街って訳でもないが、人が住んでる場所結構あるんだからもうちょっと安全性を高めるべきだろ。いくら辺境っても横浜だぞここ。


と、そんなことを言っていたら家に着いた。


鍵カギ……おっ、と。落とした。


しゃがんでそれを拾おうとして、出来なかった。俺が拾う前に誰かが横に来てそれを拾ったからだ。


「はい! 落としたよ!」


脳が理解を拒む。


目の前にいるのは誰だ? イルカさんだ。…どっちだ?


長い緑色の髪、しなやかに湾曲している大きなツノ、和ドレス、黒い瞳……いや黒くない。どちらかといえば黄緑というか金色というか。


星羅とは何もかもが違うというのに、全く変わっていないと思う。頭がおかしくなりそうだ。


「どうしたの?」

「いや……ありがとう。あー、なんだ……イルカちゃん、でいいのかな?」

「そうだよ! 私はドルフィン・ロースター・ファフニル! ! ! ……あっ。ま、待って!! 今のなし!!」


???????????????



多分10分はフリーズしていたと思う。


「落ち着いた?」


それは俺のセリフじゃねぇかな? さっきの取り乱し方やばかったぞ?


「まだちょっと落ち着いてないな。とりあえず、家入るぞ」


─ガチャ


「ただいまー」

「たっ……えっと、おじゃましまーす…」


……今『たっだいまー!』って言おうとしてなかった? コイツやっぱ星羅……。


……いや、待てよ。年齢が合わない。まだあれから一年間と三ヶ月しか経ってない。何歳かは知らないが、一歳ってことはないだろう。


つまり、イルカさんは星羅ではないはずだ。全くの別人。だからそう、隣で『懐かし〜』とか言っているコイツと俺の妹は関係ない……いや、無関係じゃねぇとは思うが。


「遅かったじゃない、って…」

「ひさ…初めまして!」


コイツやっぱ星羅……。


「アンタねぇ、何があったらこうなるのよ…」

「いや、俺もなんでこうなってるのかよく分かってないわ」


普通に一人で歩いて帰ってきただけなんだけどなぁ。今思えば足音が……うん、俺の分しかなかっただろ。


「とりあえず、飯食うわ」

「まだだったんだ…」

「駅前で織歌と食べたんだけど、ちゃんと食べたってわけでもないしな」

「蒼海ちゃんとデートでもしてたの?」

「お前隠す気ねぇだろ」


織歌おりかって言ってすぐ蒼海あおいの名前が出てくるのは知ってるやつだけだろ。


あとデートじゃねぇから。アイツがお熱なのは目の前のイルカちゃんなんだよなぁ。


「それで、ご飯何? 私も食べたいな♪」

「遠慮ってもんを知らねぇのか?」

「まぁまぁ、いいじゃないの。用意するわね」

「ありがと!」


どうすっかな。頭が混乱しっぱなしだ。色々聞かねぇとな。


……ま、食べてからでいいか。……いや、現実逃避じゃないからな?

 

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