第24話

 

「今日はありがとね!」

「いえ、こちらこそありがとうございました」

「うんうん♪ あ、連絡先交換しよ?」

「……我々の使う連絡機とそちらのものでは、上手く通信ができないのではないでしょうか?」

「あ、たしかに。それじゃあ……はい。これあげるよ」

「…これは?」

「私の2つ目の連絡機だよ。これがあれば、私のカメラにメッセージ送れるからね! 有効活用してよ! あとこれ説明書」


カメラにメッセージを…? それはもう形を含めてもノートパソコン、というものではないのでしょうか? あとこの時代に紙の説明書ですか…??


「有難く受け取らせて頂きます」


…とにかく、ご好意には感謝を。



コロニーの長い廊下を歩く二人のアンドロイドがいる。


「今日の隊長、楽しそうだったね!」

「そうだな。あんなに笑ってるとこ、久しぶりに見たよ」

「普段は『むっ』って感じだけど、今日は『ぱっ』ってしてた!」

「それはよく分からんな」

「えー?」


白いロングヘアの女性と、青いツインテールの少女だ。


「……それにしても、ハイドラってのは凄いんだな」

「ハイドラって、あのレギオンさんとイルカちゃんの種族名だよね? 全体が凄いんじゃなくて、あのふたりがめちゃ強なだけじゃないの?」

「おいヒバナ、イルカ『ちゃん』はないだろう。恩人の妹だぞ?」

「だって、イルカちゃんがそう呼んでいいって言ってたじゃーん。それでだよ、ハイドラって全員あんなに強いの?」

「…はぁ。さぁな。私もこの前初めて知ったからな。隊長なら知ってるかもしれないが、少なくとも記憶共有していた120年前はハイドラの情報なんてひとつも……ヒバナのやつ、どこ行った?」



さて、今日の分の周辺地域の調査結果はダウンロード終了ですね。すっかり暗くなってしまいました。


自然豊かなこの環境、何から何まで楽しくて嬉しくて仕方がないです。


…しかし、こうも恵まれた環境に住めるということの罪悪感もありますね。かつての故郷に残った人達はどうなってしまったのでしょうか?


絶滅の危機に瀕している可能性を考えたら、この星で平和な日々を生きていていいのか疑問に思います。


私達のコロニーにはもう人間は二人しか残っておらず、その二人は高齢の老夫婦。この質問をすれば、恐らく『ヤヨイちゃんはもう戦わなくてもいいんだよ』と言ってくれるでしょう。


ですが私には……お母様を置いて逃げた私には……─


─ピッ ウィーン…


「隊長! 隊長! ハイドラって全員がレギオンさんみたいに凄いの!?」

「…ヒバナさん、まずは落ち着いて下さい」

「ていうか、隊長ってハイドラの事知ってるの!?」


……落ち着くという機能に問題あり、と。


「この前レギオン様と話すまでは一切知りませんでしたが、その際にいろいろ聞いたのでそれなりには知っています。とりあえず、こちらで座ってお話しましょう?」

「はーい!」


……おかしいですね。ヒバナさんは最新モデルのはずなんですが。


「…とりあえず、お茶でも飲みますか?」

「オレンジジュースが飲みたい!」

「…………そうですか」



「レギオン様曰く、生身で宇宙に行くことの出来るハイドラは全体の四割らしいです」

「へぇ〜4割かぁ」

「ちなみに、ハイドラは一億人程いるらしいです」

「……えっ。てことは、4000万人も!? 多すぎじゃん!」

「ですが、実際に宇宙に行くハイドラはその中の半分もいないそうです」

「半分もいないんだ。……いやいやそれでも多いって! でもなんでだろ?」

「なんでも、行く理由がないからだそうです。大体はレデネラ…レギオン様の故郷である惑星でなんでも出来るらしく、星間航行をするにもワープや『船』での移動が楽だと言っていました」


実際にレギオン様も、私達のコロニー程ではありませんがかなりの大きさの船で移動していましたし。何故か形は魚を模していましたが……。ジンベイザメとはなんでしょう?


「当たり前のようにワープ使うんだ……」

「それはあの時にわかったことでしょう。ワープゲートに驚く私達を見て、レギオン様は一瞬何が変なのか分かっていなかったではないですか」

「そうだけどさぁ、改めて言われるとなんかこう…あるじゃん!?」

「もう少し伝わりやすく話してください。昔は機械らしく感覚共有で伝わりましたが、今の私達は生物。言葉での表現をもう少し学習してください」

「うぅ〜!」

「この際ですからドルフィン様の配信で勉強でも──」


ミコさんからの通信ですか。


『どうしましたか?』

『隊長、ヒバナのやつ見てないか? さっきから探してるんだが、いなくてな』

『なるほど。何故探しているんですか?』

『ほら、そろそろ定期メンテナンスだろ? 寝てる間に終わるし、早めにやっておかないとあいつ忘れそうでな。隊長も分かるだろ?』

『はい。……あぁ、ヒバナさんなら今私の執務室にいます』

『本当か!? 今すぐいくから引き止めておいてくれ! 頼む!』


「──したらどうでしょうか?」

「む〜…隊長がそう言うなら、勉強しないとかぁー」


引き止める……ですか。


「そういえば、ドルフィン様からこれをいただきました」

「何これ」

「……これがジェネレーションギャップですか。これはスマートフォンという、連絡機の一種ですね」

「ふーん」


興味無しですか。


「あ、オレンジジュースおかわり!」

「置いてあるので自分でやってください」


─ピッ ウィーン


「あれ、ミコじゃん。どしたの?」

「どしたの、じゃない。行くぞ」

「えちょ、痛い痛い! あ、オレンジジュース! 隊長!」

「ヒバナさん、ミコさん、おやすみなさい」

「おう! 隊長、サンキューな」


─ウィーン


……今は少し、休みましょうか。

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