第20話
イルカちゃんのチャンネル登録者数88万人到達記念配信から一ヶ月と少しが経ち、世間はハロウィンイベントの準備を始める頃となった。
そんな中での都内のマンションの一室。
「というわけで山夏芽先輩! 今年はイルカちゃんのコスプレするので、衣装作るの手伝ってください!」
「帰る」
「あーちょっと待ってください! 分かりましたちゃんと説明しますから!」
「説明どうこうじゃなくて「世間では今イルカちゃんブームが来てるじゃないですか」聞けよ!」
「だから、私もそのブームに乗っかろうと思ったんですよ!」
「…え、そんだけか?」
「そんだけって、ハロウィンのコスプレなんてそんな理由でいいんですよ!」
「……うん、そうか。頑張れよ織歌。じゃあな」
「待ってくださいぃぃ!!」
─ガシッ!
帰ろうと玄関に向かう山夏芽の脚に、織歌と呼ばれた女性が飛びついた。その結果─
「ちょ待─」
─バンッ!!
「ッ!!!」
「あー!? ご、ごめんなさい先輩! 大丈夫ですか!?」
両手で勢いを殺したものの、顔面を床に強打した。
「そう見えるんなら…眼下に行くことをお勧めするよ俺は…!」
「あわわわ…!?」
◆
「それで、今そんなにイルカちゃんブーム来てんの?」
「だからそう言ってるじゃないですか!」
「具体的には?」
「そうですねぇ……SNSでイルカちゃん関連のワードが、配信の度にトレンド1位になるくらいですかね」
「すごいのか?」
「ここ一か月それが続いてるんですよ!? すごいに決まってるじゃないですか!」
「社会現象一歩手前…ってところか?」
「そうです! あと、これも見てください」
スマホの画面を向ける。
「『彼女にしたい有名人ランキングTOP10』? このサイトがどう…マジかよ」
「気が付きましたか先輩!」
「なんでお前が誇らしげなんだ。これ、ランキング7位にイルカちゃんが入ってんのな」
「10代と20代の投票率がすごいんですよ! そこだけで決めるならイルカちゃんは1位ですよ!」
「他の人と比べてプロフィールがスカスカなのは気になるが…」
「それはしょうがないですよ。なにしろ宇宙竜ですし」
そのプロフィールから分かる情報は、名前くらいしかない。身長・体重・年齢、不明。なんなら人間ではない可能性のほうが高く、好きな食べ物に至っては隕石と書かれている。
「やっぱ見た目なんだな。コメントにもそんなことが書いてあるし」
「イルカちゃんはかわいいですからね! あの和ドレスも含めて!」
「……なぁ」
「はい、なんですか?」
「お前は俺に、あの和ドレスを作るのを手伝ってほしいんだよな?」
「はい! やっと先輩もその気になってくれたんですね!」
「まだなってねぇ。ってか、あれ再現すんの難易度高すぎねーか? 服自体は色と質感寄せれば良いとしても、装飾類はどうすんだ? 黄金に宝石だぞ?」
「う、それは……金色のテープとかでなんとか……」
「あの複雑な形にか? テープを貼るには細すぎるぞ。どうやってあの形を作るんだ?」
「うぅ〜…わかりました! 簡略化しますぅ!」
「そもそもあの緑髪と角は「めっちゃ聞くじゃないですか!?」聞くだろ、それは」
「なんでですかぁ!?」
「俺が手伝うかの判断材料にするためだよ! 全く…。ノープランの計画を手伝う奴がどこにいる?」
「星羅ちゃんはそうで……あ、いや…ごめんなさい」
「…別にいい」
「……」
一瞬会話が途切れる。
「…あー、とにかく俺は手伝わない。せめて、もうちょっとしっかりした計画立ててからにしろ。…呼ぶなとは言わないから」
「先輩…」
「なんだよ?」
「男のツンデレは需要ないですよ?」
「お前っ…!? 俺のはツンデレじゃねぇだろ! お前そんなこと言ってたら、マジでなんも手伝わねぇぞ!」
「そんなこと言ってもなんだかんだで手伝ってくれるんですよね?」
「……」
「あ、ちょっと待ってください! 今のは私が悪かったですごめんなさいぃぃ! だから無言で走って帰るのはやめてくださいよぉ!」
□
【最高の】イルカちゃんについて語るスレ45【記念配信】
:水着姿美しすぎだろ!
:完全調和、パーフェクトハーモニーですわ!
:そればっかだなお前らw
:君だってそうだろう?
:そうですが、何か?
:やっぱみんな好きなんやね
:個人的にはヤドヅクリが好きだわ。サンゴのいる岩に住んでるとかロマンあるし
:わかるわ。めっちゃ綺麗な場所に住みたいよなやっぱ
:俺は普通にイルカショーだな。あの二頭がかわいすぎて一生見てられる。
:あれは野生の可愛さじゃねぇよな
:可愛ければなんでもいいのだ
:完全予定外のゲーミングリュウグウノツカイ好き
:あぁ、あの1680万色に光る深海魚ねw
:あの時カメラのライト消した後のイルカちゃんの表情めっちゃ好き
:暗くてよくわからないのですが…
:これが明るさ調整したものになります【画像】
:これはwww
:まさしく ( '-' ) この表情やなww
:スンッ…
:真顔草
:真顔で際立つこのパーツの整い加減よ
:圧倒的美少女!
:その顔も好きだが笑顔の方が好きだ
:イルカちゃんには笑顔が良く似合うよなぁ。いっつもニコニコでこっちまで笑顔になるわ
:わかるマァァン!!
:イルカちゃんの良いところはあれが演技じゃない素の状態ってところ
:むしろあれが演技だったら俳優余裕なんだよな…
:演技なわけがないだろう! 俺たちのイルカちゃんのあれが!
:草
:まぁあれは演技なわけがないわなw
:あの地底都市行ってみてーなぁ…
:40億光年を生きている間に移動できるなら行けるな
:それはもう無理なんよw
:それより、イルカちゃんのお風呂シーンだけ同接がすごいことになってたんだが
:そりゃあねぇ?
:超絶美少女イルカちゃんがバスタオル一枚なんだぜ?
:見るしかないですよ
:当たり前だよなぁ
:一体、イルカちゃんは何人の夏休みキッズ達の視線を奪ったのだろうか…
:同接軽く10万いってなかったっけ?
:さすがにそこまでじゃねぇだろw …ないよな?
:一万は超えてた
:マジかよやべぇなイルカちゃん
:話変わるんだけど、天体観測の時のドラゴンってイルカちゃんの兄だったんだよな
:そういやそうだった
:お風呂シーンのせいですっかり忘れとったわ
:やだ、俺らの記憶能力低すぎ…!?
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