第34話 山上池へ向かって

 昨夜は、トゥイクが調べ物があるからと言って解散とした。

 夜が明けた朝方、トゥイクから電話があり、今から和希を連れて『山上池』に行ってみると言われたため、和葉も同行を申し出た。


 平日の真っ昼間。十時少し前、トゥイクの自動車が遠野家の駐車場に止まった。

 リビングにトゥイクが入ってくると、そこに集まっていた制服姿の二人を見て、戸惑ったような顔をした。


「えっと……、和葉ちゃんは、まあ、俺が許可を出したからいいとして、君たち、学校は?」

「創立記念日です」

「学級閉鎖です」

 と絵美と累が揃って答えた。


「クラスメイトなのに二人して答えが違うっておかしいだろ。っていうか、思いっきり制服着てるじゃないか!」

 今朝方、登校前に、和希を心配して遠野家を訪ねてきてくれた絵美と累に、和葉が事情を説明すると、一緒に行くと言ってこの時間まで居座ったのである。

「お二人とも、サボりはよくありませんよ?」

 和葉は、ビッグサイズの黒のパーカーに、レザーのスキニーパンツ姿でリビングの椅子に座り、絵美と累にとぼけた調子で言った。


「和葉ちゃんが言うこと? それ」

 トゥイクは諦めた様子でため息をついた。

「予め言っておくけど、今日、『山上池』に行ったからといって、和希くんが元に戻る保証はないよ? 正直、着いてくる意味はあんまりないんだ」

「安心してください。サボりたいだけですから」

 あっけらかんと言う絵美の笑顔を、和葉は素敵だなと思った。


「大人としては、素直に学校に行けと怒るべきなんだろうけど……、和希くんの叔父としてはあまり強く言えないねえ」

 トゥイクの後ろでリビングの扉が開くと、そこから和希が姿を見せた。

 和希は制服姿だった。

 これは、昨日の状況を再現するという意味で着させている。誰も意味があるとは思っていなかったが、原因もそれに繋がった要因も曖昧模糊な状態であったため、できる限り、状況は酷似させておこうというトゥイクの意見だった。


「それじゃあ、行こうか」

 全員が家を出てトゥイクの自動車に乗り込むと、車は道路に出て走り出した。

 どんよりと今にも降り出しそうな灰色の雲の下、車は『山上池』を目指す。

 自動車に乗りながら、和葉たちはトゥイクから話を聞いた。


『山上池』の歴史、名前、伝承を。

 そして、影を取られるということを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る