四 そして私はのっぺらほうになった
第26話 連れて行かれた
「うるさい! お兄ちゃん面するな! のっぺらぼうのくせに!」
言霊のはずはないのだが、実際に口にしてからそうなってしまうと、少なからず思うところはあった。
四輪駆動のガタイの良い車の後部座席に座り、和葉はかずきの手を握りしめていた。
数日前、和希と喧嘩をした。
喧嘩自体は珍しいことではなく、事実、和希とはしょっちゅう衝突していた。喧嘩といっても、和葉が和希に対して一方的に罵声を浴びせるのが常で、先日の喧嘩も、最近帰りが遅いことをネチネチと指摘してきた和希に対してカッとなったことが原因だった。
喧嘩の中で、思わず『のっぺらぼう』などと和希を揶揄して言ってしまったが、しかし、だからといって、和希にこうなって欲しかった訳ではなかった。
ただ、心のやり場を見失って、二進も三進も行かなくて、それで…………。
『山上池』。
トゥイクの車に乗って、和葉とかずきが向かっていたのはそこだった。
(一姫お姉ちゃんが、亡くなった場所……)
地元の観光名所であるにも関わらず、和葉の『山上池』に関する知識はほぼ皆無だった。
第一、知りたくもなかった。
実の姉が命を落とした場所のことなど、知りたくもない。
しかし、今は知らないことには始まらない。
口をつぐみ、トゥイクの語る言葉に耳を傾けた。
――影取沼。
――姿見の池。
――鏡池。
――花袋狐草紙。
――
――河童。
――幽霊。
湿気で重い空気の中、和葉は思う。
(一体、和希は、誰に連れて行かれたんだろう……)
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