第25話 一日だけの美女

 護は今までのことに対して、頭を下げて累に謝罪をして、累は例の喫茶店で奢ってもらうのを条件に許したらしい。

 そして、今後の週末、共に松さんのお墓参りにいくという。

 二人の関係は元の幼馴染という鞘に収まり、それ以上でもそれ以下でもなくなった。


 累も護も、自分の気持ちに整理をつけられた様子で、どこか晴れ晴れとしていた。

 累はいつもの『尾張の纐纈こうけつ』に戻り、日課の空手の練習や筋トレに励み、累という個人として毎日を過ごしている。

 そんないつも通りの累を見て安心していると、ある日、学校で絵美から妙な話を聞いた。


「一姫、知ってる? この学校の七不思議の一つに、『一日だけの美女』っていうのができたらしいのよ」

「セイレーン伝説みたいなの?」

「似ているかもしれないわね。その美女を見かけた生徒は数知れないけど、何者なのかは誰も知らないし、たった一日だけしか姿を見せなかったらしいの。そして、その美しさに惹かれて、思わず体に触れてしまった男子生徒は、投げ飛ばされたらしいわ」


「……そういえば、累がオシャレして登校した月曜日に、累に投げ飛ばされた男子生徒がいたって話を聞いた気がする……」

「私もその日、クラスに現れた美少女は誰かって、隣のクラスの子に聞かれたわ」

「……」

「……」

「七不思議は、不思議のままにしておいた方が、いいよね?」

「そうね。下手な突っ込みを入れても野暮ってものよね」


 一姫と絵美が教室に入ると、七不思議の一つ……もとい、一人がブラック無糖の缶コーヒーを啜りながらスマートフォンを触っていた。

 七不思議も、随分現代に染まってきたようだ。

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