07 鍋を囲んで
四人でスーパーに行き、まずは食材をカゴに入れて行った。相談した結果、キムチ鍋にした。全員辛いものはいけるタチらしい。続いて缶ビールや缶チューハイ、スナック菓子なんかも買った。袋は三つ分になった。雅紀が二つ、俺が一つ持った。
雅紀の家は大学から少し歩く。その代わりに広い。リビングダイニングの他に、寝室が一部屋ある。ダイニングテーブルには椅子が四脚あって、ぴったり座れる。
調理は雅紀に任せ、俺と楓は横並びに座った。楓の向かい側に香織がいて、早速缶ビールを開けていた。俺は言った。
「おいおい、雅紀のこと待ってやれよ」
「いいのいいの。ねっ、雅紀?」
キッチンから、雅紀が首だけ出して言った。
「あー、別にいいぞ。勝手にやってろ」
「ほらね? かんぱーい!」
相変わらず調子のいい奴だ。俺も缶ビールを開けた。ダイニングテーブルは、四人が座れるギリギリの大きさで、何度か楓と肩が触れた。俺はその度にドキリとしてしまうのだが、彼女の方はまるで気にしていないようで、淡々と缶チューハイを飲んでいた。香織が尋ねた。
「楓ちゃんって何学部?」
「文だよ」
「そっかぁ。専攻は?」
「とりあえず英文学のゼミに所属するつももり。卒論は何にするか全然考えてないけどね」
商学部にもゼミはある。入るか入らないかは自由だ。俺は一応、マーケティングに興味があるので、入ることにした。そうすると、卒論が必須になるらしく、レポート嫌いな俺としては悩ましいのだが、まあ何とかなるかと軽く考えている。彼女らの会話は弾んでいった。
「ボクはゼミ入らないよ。文章書くの苦手だもん。読む方もね。楓ちゃんはやっぱり本ってよく読むの?」
「うん。うちの大学の図書館、なかなか充実してるからね。課題の本以外も借りてよく読むよ」
「オススメは?」
「あたし、SF小説が好きなんだ。映像化してるやつとかは、先に映画観てからだと読み易いんじゃないかな?」
俺が引き出せなかった楓の情報がどんどん出てくる。今回ばかりは香織の存在に感謝だな。読書は俺も嫌いだが、楓と話を合わせるためには何か読んでみてもいいかもしれない。そんなことを考えている内に、キムチ鍋が出来上がった。
「ほい、できたぞ」
雅紀がダイニングテーブルの中央にドンと鍋を置いた。ぐつぐつと煮えたぎる赤い物体。辛そうだ。慣れた手つきで、雅紀がそれぞれの皿に具材を入れてくれた。香織が文句を言い始めた。
「雅紀ぃ、野菜多くない?」
「バランス良く食べろ。いつも言ってるだろう?」
まるで雅紀は恋人というより保護者のようだ。まあ、世話焼きだからこそ、香織のような女の子と上手くいくのだろうが。雅紀も缶ビールを開け、俺たちはもう一度乾杯した。四人で囲むキムチ鍋は、雰囲気のせいもあってかとても美味かった。
締めのラーメンが終わり、雅紀が皿洗いをするのを、香織が手伝うことになった。その間、俺は楓とベランダへタバコを吸いに行った。彼女が火をつけ終わった頃、俺は言った。
「なんか、いきなり悪いな」
「ううん。すごく楽しかった。香織ちゃん、面白い子だね」
楓は空いた方の手でピアスをいじりだした。何個くらいあいているのだろう。俺は数えてみることにした。すると、楓が言った。
「何見てんの?」
「いや、ピアス何個あいてるのかなぁって」
「右が四個、左が五個」
「多っ」
計九個だ。楓によると、一度始めると病みつきになってしまっていたらしい。彼女は聞いてきた。
「純はピアスあけないの?」
「うーん、何か自分ではこわくてさ」
「あたしがあけてあげようか?」
「いいの?」
正直、ピアスをあけるかあけないかは問題ではなかった。また楓と会える機会がある。それだけで十分だった。楓は一歩俺に近付き、耳たぶを触ってきた。
「一瞬で済むよ。とりあえず一個ずつあける?」
「うん、そうする」
耳たぶから伝わってくる楓の体温。それにいちいち反応してしまうのが、何だか情けなかった。一瞬、千晴の顔がよぎった。そういえば、彼はピアスをあけていただろうか。俺がどういう表情をしていたのか分からないが、楓はふうっと煙を吐き出した後言った。
「純とはさ、千晴とのこともあるし、割り切って付き合えそうだと思ってるとこ。あたしとしては有難い」
「そ、そっか」
「面倒なんだよね。恋愛とか」
千晴と同じことを楓は言った。俺だって、長続きはしないが、それなりに女の子と付き合ってきた方だ。恋愛の面倒さは理解できる。それでも、彼らのように男癖女癖が酷く悪い人種というのは理解の範疇を越えていた。しかし、それが彼らだ。理解できなくとも、受け入れることはできる。
洗い物が終わり、今度はスナック菓子を並べてもう一杯やった。この日は終電に十分間に合う時間に帰ることになった。雅紀と香織に見送られ、彼らの家を出た後、楓が言った。
「純。ピアス買ったら、また連絡して」
「うん、わかった」
今度も楓の家に行くのだろう。そして、ピアスをあけた先のことに、期待してしまっている自分が居た。俺という奴は、どこまでも情けないようだ。
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