第2話「神器による適性チェック」
「ええ。皆さまを元の世界に送り返すことは可能です」
オリビアがにこやかに答えると、一同からは歓声が起こる。
やはり元の世界に帰りたい者がほとんどなのだ、と三郎丸は思う。
三郎丸としては両親のことがなければ、べつに帰れなくてもよいのだが。
「ただし、条件があります」
とオリビアは真剣な顔になり、みんなは息を飲む。
「魔王を倒していただくこと、および儀式に必要な魔力を貯蔵していただくことです」
「まあ魔王を倒すために俺たちは呼ばれたんだしね」
仕方ないと光谷が言うと、オリビアは苦笑する。
「魔王の力は強大で、本来異なる世界の往来を阻害します。今回では神器の力によって乗り越えましたが、神器は適合者を呼び寄せる力しかないのです」
「魔王を倒さないかぎり、僕たちが帰るための障害が消えないということですね」
と神代が確認した。
「はい。あと皆さまを元の世界、時間へと正確に送り返すためには莫大な魔力を必要とします。魔王の角や爪をいただければ、ある程度補えると思います」
この説明に納得の空気が広がる。
「元の世界どころか、時間も合わせてくれるのですか。それなら条件が厳しくても仕方がないですね」
と本郷がうなずく。
「ま、俺は帰らなくてもいいけどよ。英雄として暮らせるなら。美人が多いみたいだし」
と足立はちらっとオリビアの背後に目を向ける。
そこには騎士の姿をした男女、修道服みたいなかっこうの男女がいた。
見事なまでに全員が美形ぞろいである。
女子の視線が厳しくなったのに、足立は無頓着だった。
「残りたい方は残っていただいてけっこうです。わたくしどもの都合で戦い、魔王を倒してくださるお方ですもの」
オリビアは余裕の笑みで受け流す。
「じゃあ決まりだな! 神器や戦いについて教えてくれよ!」
と足立が馴れ馴れしく彼女に話しかける。
「承知いたしました」
オリビアは微笑むが、子どもをあしらう年長者のようにも見えた。
彼女がふり向くと修道服みたいなかっこうの男女四人が、全員で大きな透明の球を持って前に出る。
「神官たちが持つこちらが神器です。順番に手を触れてみてください」
とオリビアは告げた。
「これが神器? へー、じゃあ俺から!」
「あっ」
尾藤が制止の声をあげようとしたが遅く、足立が球に触れる。
すると白く光った。
「おお」
オリビアは微笑を浮かべたままだが、騎士と神官たちからは声が上がる。
「あなたは神器の適合者です」
「え、じゃあ俺がこの神器を持つのか?」
なれなれしい口調で足立はオリビアに問う。
「いいえ」
オリビアは首を横に振った。
「神器は触れた適合者に力を与えるはずです。魔王を倒せる英雄の力と、スキルのふたつを」
「たしかに俺の頭に【剣適性】なんて言葉が浮かんだぜ」
彼女の説明に足立はうなずく。
「はい。ほかの方も順番にどうぞ。適性に応じて取るべき対応も変わりますから」
とオリビアにうながされて、次に光谷が前に出て神器に触れる。
「俺は【槍適性】【光魔法適性】と浮かびました」
「おお」
光谷の結果にまたしてもオリビア以外の者たちがどよめく。
「頼もしいかぎりですね」
オリビアはとても魅力的な笑顔で応じる。
順番に生徒たちが触れていくが、中には光らなかった者も出た。
「あなたには適性はないようです。どうやら、神器は近くにいた方を無差別に巻き込んでしまったようですね」
とオリビアが言うと、男子はがっくりと肩を落とす。
「ぷっ、だっせー」
と彼を揶揄したのは足立だった。
彼の態度からは優越感がすでににじみ出ている。
「そんなこと言うなよ」
と光谷は制止したが、どこか形式的だった。
「【錬金術適性】【薬師適性】と出ました」
と本郷桜が告げる。
「【雷魔法適性】かぁ……強いの?」
と綱島ヒカリが首をかしげた。
「【水魔法適性】ね」
と竜王寺マヤがつぶやく。
「適性持ちが十五人になるとは……なんてすばらしいことでしょう」
と言ったオリビアの頬が若干赤くなっている。
仮面がはがれて本音が垣間見えた、と三郎丸は思いながら前に出た。
陰キャだからどうせ光らないだろうという彼の予想を裏切り、神器は光を放つ。
「【魔法適性】と浮かんだんですが、何ですかこれは?」
属性っぽいものがない理由が気になり、彼はオリビアに質問する。
「それは人が取得可能な魔法なら、属性を問わずにすべて覚えられるものです。レアな適性ですよ」
オリビアは目を見開きながら答えた。
意表をついたようだが、俺にも意外だよ、と三郎丸は思う。
「へー、三郎丸ってすごいじゃん」
と言ったのは綱島だった。
「ち、陰キャのくせに」
男子の誰かが舌打ちしたけど、三郎丸は探す気にならない。
彼自身同じような気持ちだった。
「残念ながら適性はあくまでも適性ですので、活かせるようにトレーニングしていただくのが重要です」
オリビアがなだめるように微笑む。
「ですよねー」
光谷と足立がどこか安心したように見えるのは、三郎丸がひねくれているからだろうか。
「では適性ごとにわかれていただき、それぞれの担当とトレーニングに励んでください」
とオリビアが言うと、男子たちの前にそれぞれ男性騎士が立つ。
「武器の適性で言えばやはり騎士です」
足立は明らかに落胆した表情だった。
続いて女性の神官がふたりオリビアの左右に立つ。
「魔法に適性がある方たちはわたくしどもが担当させていただきます。錬金術もこちらです」
オリビアの言葉で女子たち六名が集合し、男子は三郎丸だけになってしまった。
担当者も全員が女性なので、三郎丸としてはいやな予感しかしない。
「オリビア様、俺は光魔法の適性もあるのですが」
と光谷が問いかける。
「そうですね。しかしまずは槍を学ぶことをおススメです。バランス的に前で戦える方はひとりでも多いほうが安全でしょう」
「わかりました」
オリビアの答えを聞いて光谷は素直に納得した。
三郎丸としては粘って欲しいところだったのでがっかりする。
「戦えない人はどうすればいいんですか?」
と尾藤がおそるおそる問いかけた。
「魔王を倒せる日が来るまで寝床はこちらで用意できますが、生活費は各自で稼いでいただければと思います」
オリビアは申し訳なさそうな表情で答える。
「面倒見てもらえないのですか?」
尾藤は食い下がった。
未知の世界で稼げと言われてもすんなりとうなずけるはずがない。
ましてや彼女以外は高校生である。
「先ほど申し上げたように人類国家の状況は厳しいのです。何事もないなら、皆さまの生活費を捻出することは可能でしょうけど」
オリビアは表情こそ罪悪感があるが、譲るつもりはなさそうだ。
「俺たちががんばればみんなの生活費は何とかなりそうですね。先生、心配しないでください」
と光谷が白い歯を見せる。
「……ごめんね」
ほかに手段がなさそうだと悟った尾藤はがっくりと肩を落とす。
「ではここからはグループ別に行動しましょう」
とオリビアが手を叩くと騎士や神官が動き出す。
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