第3話「魔法の説明と練習」

「休憩時間をすこしはさんでもかまわないのですが、どうしますか?」


 とオリビアは問いかける。


「平気。自分が魔法を使えるかどうかのほうが気になる」


 マヤが最初に答えた。


「そうだよね。どれくらいデキるのか、まず確認したい」


 綱島も同意し、


「休むのはあとからでもできますからね」


 本郷も賛成して残り三人の女子からも反対は出ない。


 三郎丸はどちらでもよかったので、オリビアの水色の瞳が向いたタイミングで小さくうなずいた。


「ではトレーニングをはじめましょう。その前に改めて自己紹介を」

 

 オリビアは軽く一礼する。


「オリビア・レームズ・クレーロス。この国の第三王女。保有適性は火魔法、水魔法、雷魔法、召喚魔法の四つです」


「四つ?」


「すご」


 三郎丸をふくめて日本人たちは彼女の発言に度肝を抜かれた。


「そちらの殿方ほどではないです。わたくしは【魔法適性】を持つ方の下位互換と言えますから」


 オリビアに微笑まれ、女子たちの視線を浴びて三郎丸は困ってしまう。


「では残りのふたりも」


 彼の反応を期待してなかったらしいオリビアたちは自己紹介に戻る。


「神官のアイシャです。光魔法、薬師のふたつの適性を持っています」


 三郎丸から見て左側の小柄な栗色の少女がまず話す。


「神官のリリーです。土魔法と錬金術の適性を持っています」


 次に茶髪をショートヘアにした少女が言う。

 女性にしては長身のマヤよりもさらに高く、三郎丸とほとんど同じだ。


「竜王寺マヤよ」


「本郷桜です、よろしくお願いいたします」


「綱島ヒカリ、よろしくー」


 まずは三人があいさつする。

 本郷以外の礼儀が怪しい点はオリビアたちは微笑でスルーした。

 残り女子たちもあいさつするが、ぎこちない。


「三郎丸洋平です。よろしくです」


 三郎丸のあいさつも大して違いはなかったが。


「薬師以外は魔法適性ですべて覚えられますので、ヨーヘイさんが一番大変かもしれませんね」


 オリビアと神官少女たちは笑っているが、三郎丸としては笑えない。


「そんな何でも覚えようとしても、器用貧乏になるだけでは?」


「それはありますね」


 オリビアは彼の疑問を肯定する。


「皆さまの中に使い手がいない火属性、使い手が多いと便利な光属性を中心に覚えられるとよいかと思いますよ」


 とオリビアが助言した。


「そのほうが役割分担できてよさそうですね」


 陰キャの三郎丸としては、自分の存在意義はあったほうがうれしい。

 

「いまからトレーニングをはじめますが、こちらは三人なので三手に別れましょう。わたくしが火と雷なので、ヨーヘイさんとヒカリさんを担当いたしますね」


 オリビアの説明を聞いて三郎丸がこくりとうなずくと、ぽんと肩が叩かれる。


「三郎丸よろー」


 綱島が笑顔で話しかけてきた。


「よ、よろしく」


 可愛い上に気さくで距離感も近い。

 陰キャの三郎丸は返事をするだけで精いっぱいだ。


 きょどってキモイと思われなければいいな、なんて考えてしまう。


「同じクラスの仲間なんだし、そんな緊張すんなよー」


 綱島はケラケラと笑う。


「ヨーヘイさんはシャイな方なんですね」


 オリビアの支線が微笑ましいものを見るものになる。

 女性ふたりに誘導される形で、聖堂の外に出た。


 広々とした庭には芝生がはえていて、遠くに柵が見える。


「最初に簡単な説明から。わたくしたち生きているものはみんな、生命力を持っています。それを魔法を使う力に変換するので魔力と呼びます」


「つまり魔力と生命力って同じってこと?」


 と綱島が右手を挙げて首をかしげた。


「正確を期すと複雑になってしまうので、そう覚えていただくほうがよいでしょう。実際、魔力を使い果たすと疲労で倒れますが、命に影響は出ないのですけど」


 近い設定の漫画を読んだ気がするな、と三郎丸は思ったが口に出すのはひかえる。


「自分の魔力がどれくらいなのか、把握しておくことは戦いでは重要です」


「魔力切れたら、魔法使いって役立たずだもんな」


 と綱島の言葉にオリビアはうなずく。


「ええ。ただ、魔力は使い続けることですこしずつ増やせるので、トレーニングで魔力切れを目指すのはありですけど」


「覚えとく」


 綱島は同意しなかった。

 この世界で倒れたら不安だという気持ちは、三郎丸には理解できる。


「次にですが魔法を使って見せましょう。火よ、荒ぶる力を見せよ【フラム】」


 オリビアが右手を天に向けて呪文を唱えると、手のひらから火の玉が現れた。


「おお」


 三郎丸も綱島も、思わず声が漏れる。

 魔法という代物を初めて目で見た感動は、何とも形容しがたい。


「続いて。雷よ、荒ぶる力を示せ【トネール】」


 今度は稲妻のようなものがオリビアの手からほとばしる。


「このふたつは下級呪文に分類されます。まずはこれを覚えましょう」


 オリビアに言われて三郎丸と綱島はうなずいた。


「さっそく試してください」


「え、いきなり?」


 と三郎丸はつい口に出してしまってあわてて口を押える。


「やっぱり体で覚えたほうがいいんじゃね?」


 彼と違って綱島は乗り気だった。


「えーと、雷よ、荒ぶる力を示せトリール、だっけ」


 彼女はオリビアのマネをするが何事も起こらない。


「トネール、です。ヒカリさん」


「あ、そうか」


 オリビアに指摘されて彼女はやり直す。


「すぐには無理なのか」


 と三郎丸はすこし残念に思いながら、自分でも試してみる。


「火よ、荒ぶる力を見せよ【フラム】」


 空に向けた彼の右手のひらから火の玉がポンと出てすぐに消えた。


「できてんじゃん」


 綱島は目を丸くし、


「いきなりできるのはすばらしいですね!」


 オリビアも感嘆する。


「雷よ、荒ぶる力を示せ【トネール】」


 気をよくした三郎丸は次に雷魔法を試してみると、同じく電撃が短く走った。


「すごい。いきなりふたつの魔法を!?」


 オリビアは驚きの声をあげる。


「マジかよ。三郎丸、すげえやつだったんじゃん」


 三郎丸も男なので、可愛い同級生や美人の王女から尊敬のまなざしを向けられて悪い気はしない。


「ウチも負けてらんねぇな。雷よ、荒ぶる力を示せ【トネール】」


 と綱島は呪文を唱えるが不発に終わってしまう。


「あ、あれ……?」


「いきなりできるのは相当珍しいので、あせらないでくださいね」


 オリビアは優しく綱島に話しかける。

 

「あ、うん」


 綱島は何とか落ち着きを取り戻す。

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