第46話

 人と関わる事は嫌いじゃない。一人の時間も好きだが、他人と話して笑い合うのも好きだ。

 嫌いな人もいる。上辺だけの関わりの人もいる。

 周りに合わせるのは苦手ではない。苦痛ではあったが我慢できた。

 周りに合わせて我慢して、上辺だけの関係を構築した。

 気の合う友人もいる。いつも寄り添ってくれる幼馴染みもいる。

 我慢ばかりしてきた訳ではない。友人も幼馴染みも、俺にとって素のままでいられる、心の拠り所だったからだ。

 特に幼馴染みの彩也香は、多数の人と違う考えの俺に、寄り添おうと歩み寄ってくれていた。

 それが、心の支えだった。

 しかしある時、その支えを失った。

 高校一年生の二月末。いつもどおりの下校中、彩也香は交通事故で帰らぬ人となった。

 通学に利用しているバスを降りた後、家までの道を歩いている最中、ブレーキとアクセルを踏み間違えた車に轢かれたようだ。

 現実を受け止めるのに時間がかかった。いや、受け止められず、放心状態だったかもしれない。

 お通夜に参列した。棺桶の中で眠る彩也香の顔を見て、俺は動けなくなった。

 棺桶を見下ろしたまま動かない俺に、彩也香の母親が、肩に触れながらハンカチを差し出してきた。

 おばさんの顔も、涙で濡れていた。

 彩也香の寝顔から視線をそらした事で、ようやくその場を離れた。

 椅子に座り、彩也香の顔を覗く人達を見ていると、中学の同級生が近づいてきた。

 俺とは違う学生服を見に纏い、俺に「元気出せ」と声をかけてきた。

 俺と同じ学生服を着た、同級生も声をかけてきた。

 同じように「元気出せ」と言われ、鬱陶しいと思った。

 一人になりたかった俺は、何も言わずその場を離れた。

 翌日の葬儀にも参列して、彩也香との最後の姿を見送り、彩也香のいない明日を迎える。

 学校には毎日登校していた。

 教室にいるだけで自分がどう過ごしていたか覚えていない。本当に、教室にいるだけだった。

 ある時、上辺だけの関係の生徒数人が声をかけてきた。

 馴れ馴れしく肩に手を置いて「気持ちは分かる」とか「前を向け」などと言ってきた。

 我慢の限界だった。

 本当に鬱陶しかった。

 俺に歩み寄ろうとしなかったくせに、何が「気持ちは分かる」だ。

 俺がどれほど彩也香を大切に思っていたかも知らないで、何が「前を向け」だ。

 怒りが芽生えたが、何もやる気が起きない俺は黙っていた。

 ただ黙ったまま、マンションの屋上に向かっていた。

 彩也香に会いに行く。彩也香に会って、心が安らぐ時間を過ごしたかった。

 そんな考えしか、俺には浮かばなかった。

 この世ではない所に行けば、きっと彩也香に会える。

 そう思った俺は、屋上から飛び降りた。そして、鈍い音が響いた。

 次に目が覚めた時、病室のベッドの上で、俺は彩也香と再会した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る