第41話
CMが終わりジングルが流れる。そのタイミングに合わせて、パーソナリティー達は手元の台本に目を通し、マイクの位置を確認し始めた。
『ハイッ! 午後四時から、特設スタジオからお送りしている公開生放送。続いてのコーナーは――』
ジングルが明けると、男性にしては高めの声で聞き取りやすい声がスピーカーから流れ始める。
男性のパーソナリティーが台本を読みながら、番組を進行する声だ。
『――市内の高校生をお招きして、学校生活や部活動についてお聞きする企画――』
男性から引き継ぐように、女性のパーソナリティーが台本を読み上げていく。
ついに始まった。黒野が出演する企画だ。
『――今回は、前回告知した通り、県立北高等学校の生徒をお招きしております――』
女性のパーソナリティーが言い終わると、隣の黒野に手のひらを上に向けて差し出し、合図を送る。恐らく、挨拶のタイミングを教えてくれているのだろう。
『は……初めまして……北高等学校の……黒野です』
俯いたまま、マイクがギリギリ音声を拾えるくらいの声で挨拶をする黒野。
生放送を観覧している人達は、首を傾げながら訝しそうな表情でラジオを聞いている。
元々名前を知っている俺は聞き取れたが、黒野の名前を知らない人が聞いても、聞き取れないほど、ボソボソ呟く程度の声だった。
『緊張しているみたいだね。大丈夫だよ、隣の超美人なお姉さんがなんでもフォローしてくれるから。』
上手く話せない黒野に対し、和ませるように、なおかつ、冗談混じりに明るく進行していく男性のパーソナリティー。
女性の方も、それに乗っかり盛り上げていく。
黒野は、まるでそれが聞こえていないように、喋らずに無反応のままだった。
「やっぱり、無理だったな」
番組の企画は十五分くらいを想定しているらしい。
たった十五分。しかし、この企画は、ゲストとして招かれた黒野から、話しを聞きだすための時間だ。黒野がこの調子では企画自体が破綻してしまう。そうなれば、自分のせいで迷惑をかけたと、黒野は自分を責める。そして、トラウマからなる、大勢の前で話せないという苦手意識を強め、さらにトラウマも重くのしかかるだろう。
だが、黒野が本番で話せないのは、想定内だ。
元より、この日までに黒野が克服できるとは思っていない。
校内ラジオを利用して、黒野に課題を提供してきたのも、この解決方法で乗り切るためだった。
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