第40話

 黒野から相談を受けたのが月曜日。それから四日が過ぎ、今は金曜日の放課後。

 大勢の前で話せるようになりたい。という黒野からの相談。そのリミットは、あと五分ほどで迎える。いや、正確にはあと五分ほどで、現在行われているラジオの生放送に黒野の出番が回ってくる。

 俺たちの通っている高校の近くにある、大型ショッピングモール。その一階の公開収録用の特設スタジオの前で、俺は長椅子に腰掛けて待機している。

「ローカル局のラジオ番組の割に、結構集まってるな」

 俺の隣で、出番がくるまで、スタジオから見て最前列の長椅子で待機している黒野に声をかける。

 膝に手を置き、俯き加減で一点を見つめる黒野。その様子から、溢れんばかりの緊張が伺える。

「何人くらい……いる?」

 大勢の前という意識をそらすためか、緊張でそれどころじゃないのかは分からないが、自分で確認しようとせず、周りの状況を俺に尋ねてくる。

「ざっと見たところ……二十人くらいはいるかな? 何人かは座って休憩してるだけって感じだけど」

 黒野に尋ねられて、改めて周りを確認すると、二人がけできる長椅子はそれぞれ埋まっており。後方の長椅子に腰掛ける人の中には、スタジオに背を向けてスマホをいじる人もいた。恐らく、その人達は公開収録が目当てではなく、ただ休憩しているだけだろう。

 座っている人以外にも、四角い柱にもたれながらスタジオを眺める人などもおり、前日の下見の時よりも人が多く集まっている。

「どうしよう……そんな大勢の前なんて……どうすれば……」

 集まっている人数を聞いて、より緊張が高まったのか、黒野はうわごとのように呟きだす。

「大丈夫だ。いつもの放送室みたいに話せばいいんだよ」

「いつもは……こんなにも人はいないよ……」

 気休め程度に励ましてはみたが、当の本人は未だに視線を動かさず、消え入りそうな声で答えるだけだった。

「そろそろ出番なので、こちらへどうぞ」

 俺たちの元に、私服姿の若いスタッフらしき男性が近寄ってきて声をかけてきた。

「は……はい……」

 スタッフに視線を合わせないまま、黒野は小さな声で返事をしてスタッフについて行く。

 スタジオの周りにあるスピーカーからは、地元企業のCMが流れており、それが終わると遂に黒野が出演する番組企画が始まるのだろう。

 スタッフに誘導されて、ドアからスタジオブース内へと入っていく黒野。

 今はマイクはオフになっており、ブース内は防音が施されているため、中の声は聞こえない。

 ブース内では、頭を下げて挨拶をしているであろう黒野に、それに応えるように軽く頭を下げる、男女二人のパーソナリティー。

 俺から見て、正面には二人のパーソナリティーと向かい合うような配置になっており。黒野は、二人の左側。女性の隣へと誘導されている。

 誰から見ても、緊張しているのが分かるほど、黒野は俯いたままだ。

 パーソナリティーの二人も気を利かせて声をかけているが、黒野が放つ緊張感は相変わらずだ。

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