第36話
「とりあえず、黒野がどんな感じで校内ラジオをやってるかは分かったよ。今日はこのまま解散だな」
流れていた曲が終わり、校内ラジオは完全に終了した。
チャイムなどは、あらかじめセットしてある時間になると自動で流れるようになっているらしく、俺たちが放送室でやることはもうなにもない。
俺の提案に従うように、放送室にいた彩也香達は各自いつもの昼休みに過ごす場所に戻っていく。
「人がいる中で放送するのはどうだった?」
皆が出て行くのを見計らって、放送室に残った黒野に今日の感想を聞く。
放送が終わった後、黒野と話しをする事は皆には事前に伝えている事もあり、二人で話す環境はすぐに整える事ができた。
「案外……いつもと変わらない……かも?」
「そうなのか?」
「うん……目の前には……壁とマイクしかないから……皆に見られてるって感じしなかった……かな?」
「そうか……まぁ当日は、他のパーソナリティーやスタッフもいるだろうし、感覚ぐらいは味わえたんじゃないか?」
「どう……だろうね……」
金曜に行われる生放送は、ショッピングモールにある特設スタジオのブース内には、機材を操作するスタッフもいる事だろう。大勢の人は用意できないまでも、放送室という空間をスタジオに見立てて、当日の再現をしたつもりだったが、本人には壁とマイクしか見えていないようで、曖昧な返事が返ってきた。
見られている。という感覚さえ無ければ、黒野は普段通りに話せる。それが分かっただけでも俺的には大きな収穫だ。
これは、黒野が生放送の当日を乗り切るための重要な要素だ。
「当日は台本とかも用意出来るだろうけど、パーソナリティーとの会話にはアドリブも必要だろうから、明日からはその練習もしておいた方がいいな」
「練習って……どうすれば……いいかな?」
「そうだなぁ……質問とかリクエストに応える感じで、その都度感想とかをラジオで話せばいいんじゃないか?」
「なるほど……それなら……できるかも」
提案に対し、前向きな返答をする黒野。
俺たちに相談をしてきた時点で分かってはいたが、本人なりに自分の状況を改善しようとする気持ちは強いようだ。
これは、黒野の本来の性格がそうさせているのだろう。
トラウマのせいで人と話すのが苦手になった黒野も、いつかはそれを乗り越える事ができるだろう。
だからこそ、顧問の山下先生を説得する必要を感じた。
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