第29話

 翌日の朝。いつも通り自転車で登校した俺は、校舎裏にある駐輪場に自転車を停めている。

 学年毎に区切られた駐輪場の『二年』と書かれた看板が吊るされた場所に自転車を停めて鍵をかける。

「おう間島。お前もチャリ通だったのか」

 同じ時間帯に登校してきた自転車通学の生徒が、ゾロゾロと歩き回る駐輪場。その中から、聞き覚えのある声に呼び止められた。

「羽島?」

 声の主は羽島だった。

 校舎に向かう生徒をかき分け、羽島はこちらに向かってくる。

「おう、おはよーさん」

「あぁおはよう」

 見た目だけなら近寄り難い羽島だが、体育館裏で話して慣れてきたのか、もう威圧的なオーラは感じない。

「昼以外にお前と話すのは初めてだな」

「そうだな、一年の時からクラスも違うし、今まで絡みもなかったしな」

 校舎に向かう生徒の流れに乗りながら、二人並んで歩く。

 心なしか、俺たちの周りだけ空間が広く開けられている。たぶん、他の生徒が羽島と距離をとっているためだろう。

「そういえば、昨日どうだった?」

 改めて羽島が、周りにどう見られているか実感させられながら、昨日の放課後の顛末を聞いた。

 木下に、妹のプレゼントを買いに行くと約束を一方的に取り付けられて、放課後に駅前のアニメショップへ行ったはずだ。

「木下の奴、相当強烈だったぞ」

 距離をとっている生徒を気にする事もなく、羽島は木下との放課後の話しをする。

「アイツ店に入るなり、ラックに掛かってるストラップとかを端から一つずつ確認しながら、マジカワユス。とかはしゃいででてよ」

 店に行った事はないが、なんとなくその光景が想像できる……。

「話しかけても、ちょい待ち。とか言って、ストラップを全部見終わるまで後ろで待たされるしよ」

「大変だったな」

「まぁな。その後はちゃんと妹のプレゼントを選んでくれたけどよ」

「どうだったんだ? ちゃんと買えたのか?」

「あぁ、買う前に、見覚えのあるキャラとかロゴがどうとか、色々質問攻めされたけどな」

「妹にはもう渡したのか?」

「渡したぞ。普通に喜んでくれてな、久しぶりに会話らしい会話もできたし」

「へぇ~良かったな。でもなんで今まで交流が疎遠だったんだ?」

 妹との仲が改善されたようで何よりだが、そもそも妹が距離を置いていたのが気になった。

「それがな、思春期ってのもあるけど、シスコンがうざかった。って言われた」

「……それだけ?」

「おう、それだけだ」

 それはまた……単純な理由で。というか、シスコンだったのか……。

 まぁ、プレゼントを気に入ってもらえたおかげで、距離が縮まったのもあるだろうが。

「そうか……木下とはどうなったんだ?」

「木下か、妹にアイツの事話したら、是非お会いしたい。とか言い出してな、今度会わせる事になりそうだ」

 苦笑いで遠くを眺めるように返す羽島。妹との距離を縮めてくれた恩がある分、アニメショップで振り回されたであろう羽島からすれば、少し複雑かもしれない。

「まぁ木下には感謝してるけどな。あと、お前たちにも」

「俺たち? 俺は何もしてないだろ」

「木下を紹介したのはお前たちだろ? それに、俺とこうやって話せるのもお前たちくらいだしな」

 顔をこちらに向けて、笑顔で話す羽島。

 その顔には、威圧的なオーラは無く、好意的な印象が浮き出ている。

「変な物でも食ったか?」

「食ってねぇよ」

 俺の冗談に怒る事なく、ツッコみを入れる羽島。他人だった俺たちは、並んで教室まで歩いていった。

「そんじゃ俺コッチだわ、じゃあな」

 校舎の二階に着き、それぞれの教室に向かうため分かれる。

「おう、また昼休みにな……竜輝」

 俺の声に振り返り、キョトンとした顔をする竜輝。

 少し間を置いて、口角を上げて俺に返事をする。

「おう、またな景吾」

 そう言ってから、俺たちはそれぞれの教室に向かった。

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