第28話
「そんじゃまた放課後にね! 因みに、ウチはバスで行くから。駅前のアニメショップに現地集合でヨロッ!」
チャイムが鳴ると、羽島に放課後の予定を伝えながら一足先に教室へ戻る木下。
その場に残っているのは、傍観を決め込んだ俺といつも通りの隼人。そして、宇宙戦艦木下の侵攻を受け続けて、疲弊した様子の羽島だった。
「すさまじい女だな……」
ゆっくり立ち上がり、木下が去っていった方角を眺めながらそう呟く羽島。
「すまん。事前にどういう奴か伝えておくべきだったな」
強烈な奴なのは知っていたが、羽島にまであれほどグイグイ絡むとは思っていなかった。
オタクだったら話せない。とか言ってたくせに、一方的に喋ってたじゃねぇか。
「事前に聞いてても、アイツの絡み方は変わらねぇだろ?」
苦笑いお浮かべながら答える羽島。
「まぁ、確かに……」
事前に伝えたところで、木下の勢いに備える事は困難だろう。
羽島の言い分に生返事でしか答えられない。
「よかったな竜輝っ! 妹ちゃんのプレゼントを選んでもらえるんだからっ!」
苦笑いを浮かべる俺たちに、いつも通り能天気な隼人が口を挟む。
俺も『栄光戦線』の話しを一方的に話されたから、羽島の気持ちは分かるけど。隼人はパンを頬張りながら眺めてただけだから、一方的に蹂躙される気持ちが理解できないのだろう。
「まぁあんだけ他人と濃い絡みしたのは、随分久しぶりな気がするな」
苦笑いだった羽島は、照れくさそうに首の裏を掻きながら憑きものが取れたような笑みを浮かべていた。
「大丈夫か? オタクの矜持を伝授する。とか言ってたけど」
「あぁ……まぁ大丈夫だろ。たまには、他人の趣味に付き合うのも悪くねぇかもな。アニメ好きな妹の事も理解できるかもしれねぇし」
そう言うと、羽島はこちらに背中を向けて「俺たちも戻るぞ」と言って歩きだした。
「たぶんこれで解決だなっ!」
羽島の背中を見つめる俺に、頭の後ろで手を組んだ隼人が話しかける。
「解決? 何が?」
「相談事。木下のオタク友達が欲しい。ってのと、羽島の悩みだよ」
「解決してないだろ。ただ二人を会わせただけだぞ?」
「二人を会わせたからだよっ! 木下と話してた羽島の顔。満更でも無さそうだったろっ?」
確かに、最後には照れくさそうに笑みを浮かべていた。だけど、それがどうした? というのが俺の感想だ。
「それがどうして解決に繋がる?」
「オタク友達が欲しい木下に、妹との関係に悩んで疎外感を感じてる羽島。二人が仲良くなれば全部解決だろっ‼」
「そんな簡単な事じゃないだろ。それに、そんなすぐに解決する事なら、二人とも悩んだりしないだろ」
「簡単な事だろっ! あの二人の場合なら!」
「二人の場合?」
「二人とも悩んで苦しんで、その末に打ち明けた。そんで二人の悩みが偶然噛み合ってて、俺たちが引き合わせたら、すぐに変化があったろっ?」
羽島は疎外感を覚えていた。それが木下を紹介する事で、妹との相談を話せる人ができて、少なくとも疎外感は解消されるかもしれない。
木下は、オタク友達が欲しいと言っていた。ただし、ギャルに偏見を持つオタクが多く、対等に仲良く出来る人がいないのが悩みだった。
その点、羽島は木下に遠慮したりビビったりする事もない。その上、アニメ趣味に歩み寄ろうとする態度も見せた。
言われてみれば、上手く噛み合っているようにも思える。
「会わせただけで解決なら、二人とも随分遠回りしてたんだな」
「そんなもんだろっ! 解決した後に、なんであんなに悩んでたんだ? ってなる事あるだろっ? 悩むと難しく考えて、他人に打ち明けたら意外と簡単に解決する。今回の二人も同じって事だろっ!」
「悩むと難しく……か」
二人とも悩んで遠回りしたあげく、他人の意見で容易く解決の糸口を手繰り寄せた。
「俺たちも戻ろうぜっ!」
「あ……あぁ……」
体育館裏で立ち話を続けていた俺たちは、教室に戻るため歩き出す。
歩きながらも、隼人の言った言葉が頭から離れなかった。
悩むと難しく。俺も打ち明ける相手がいれば、元の世界でも……。
今となっては意味のない悩み。それが、今さら頭の中を巡っていた。
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