第25話
「――っていう事で、羽島は別にオタクじゃなかった」
その日の放課後。昨日に引き続き、中庭で木下と落ち合い、昼休みに行った調査の結果報告をしていた。
「俺もその場にいたけど、オタクなの隠してる素振りもなかったぜっ‼」
「そうなんだ。三ツ矢君、協力してくれてありがとう」
俺の報告を補足するように、主観を述べる隼人。
彩也香が協力者として、新たに加わった隼人にお礼を言う。
隼人なりに、羽島に対して思うところがあったようで、そのままこの一件に加わると直談判してきた。
「そっか~残念だけど、仕方ないかな?」
報告を聞き、肩をすくめて残念がる相談主の木下瑞穂。
元の相談が、羽島竜輝がオタクであるかの調査ではあるが、それに付随した相談として、自分の見た目に遠慮しないオタク友達が欲しい。という悩み相談に関しては、進展なしという事になる。
本命の相談としては、調査よりもオタク友達を欲している事になるから、羽島に目を付けていた木下が残念がるのは無理もない。
「でも羽島君、妹さんにプレゼント買うなんて妹想いなんだね」
残念がる木下を見かねてか、彩也香は羽島がアニメショップから出てきた理由を話題に持ち出した。
「それなっ‼ シスコンっぽくてアリ‼」
残念がってはいたが落ち込んでいるわけではないようで、彩也香の持ち出した話題に、木下は態度を一変させて食いついた。
急に態度が変わり、話題を振った彩也香が驚いている。
木下と会話をするのは昨日が初めてではあるが、彼女は分かりやすい程に明るい……というか、元気というかパワフルだ。
そんな木下も、悩みを打ち明ける際には普段の態度は鳴りを潜めていた。羽島の報告を聞いて残念そうにしていたのも、それほどオタク友達が欲しいという悩みは切実なものだと思う。
「なぁ、景吾!」
木下がシスコン属性の魅力を彩也香に説いている間。隼人が耳打ちで呼びかけてきた。
「どうした?」
耳打ちしてきた隼人に対し、身を寄せながら声を潜めて返す。
「一応、提案なんだけどさ!」
いつも快活な声で話す隼人が、小声で話している事が奇妙に感じる。
「提案?」
「そう提案。羽島の事だけど」
木下に報告をする際、羽島の悩みについては省いて説明した。
羽島は、会話をする中で俺たちに少し心を開いてくれたように感じた。だからこそ、悩みを打ち明けたのかもしれない。それを言いふらすのは気が咎める。
隼人も同じ気持ちなのか、小声で羽島の件を話すのはそのためだろう。
「なんでこのタイミングなんだ?」
「いや午後の授業から考えてたんだ。オタク友達の事は一旦置いといて、瑞穂ちゃんを竜輝に紹介するのはどうよ?」
「羽島に? どうして?」
「ほら、竜輝の妹ちゃんってアニメ好きって言ってただろ? だから、瑞穂ちゃんに距離を縮めるアドバイスとか貰えるかもしれないじゃん?」
「アドバイスってどんなだよ」
「わかんねぇよ!」
「わかんねぇのかよ!」
「わかってたら、昼にアドバイスできてたろ? だから瑞穂ちゃんの力を借りようって言ってんだよ」
「まぁ……確かに」
珍しく正論を言われて口ごもる。
「竜輝が距離を縮めようとして、アニメが好きな妹ちゃんに、アニメグッズをプレゼントしても微妙な反応された。って言ってたし、思春期の女の子が何考えてるかだって、男だけじゃわかるわけないだろ?」
なぜか今日の隼人は冴えているように思える。
「その点、瑞穂ちゃんはアニメ好きな人の事わかってそうだし、女の子の事は女の子に聞くのが一番だろ?」
確かに、男だけじゃ女性の事はわからない。その上、思春期という難しい年頃。さらに趣味が同じともなれば、なおさら俺たちよりも的確なアドバイスが期待出来るかもしれない。
「俺でも気づかない事をよく思いついたな。」
いつも能天気で物事を深く考えてなさそうな隼人が、俺でも考えつかないような提案をした事に対して賞賛を送る。
「そりゃ彩也香ちゃんを見てればわかるよ。女の子関連の事に関しては、景吾は鈍感だからな。」
なんで彩也香が出てくる?
とりあえず、隼人の提案に関しては一理ある。
男だけで悩んでも埒が明かない事と、孤立してしまった羽島に女性の相談相手がいない事を考えれば、女性であり、羽島と仲を深めようと考えていた木下ならよい相談相手にもなりそうだ。
俺が鈍感かはともかく、羽島の事を話そうと木下に視線を向けると……。
「ああいうのも結構イケるんだよ。BLを好む腐女子ってのは。ウチも割と悶えそう」
「けいちゃんが……そっちだから私には……」
不適な笑みでこちらを見る木下と、頬を赤らめながら落ち込んだ様子の彩也香が身を寄せ合っていた。
「何してんだ? お前たち」
「いやぁ、顔を近づけてる間島っちとはやとーるの間にお花が見えたから!」
お花? 本当に何を言ってるんだ? あと、はやとーるって隼人の事か?
「そんなことより木下、ちょっと頼みを聞いてくれるか?」
「ウチらに席を外して欲しいの?」
「外すな! ここにいろ」
頼みがあるって言ってるのに、何でどっか行こうとする?
「真面目な話だ。できれば口外無用で頼みたいが、大丈夫か?」
あくまで、羽島が打ち明けてくれた悩み。言いふらしたりしないよう、釘を刺すように問いかける。
俺が頼みこむように話したおかげか木下は姿勢を正し、彩也香は両手で赤らめた頬挟んで頷いた。
彩也香が頬を赤らめているのは気になるが、昼休みに聞いた羽島の抱える悩みを二人に話した。
「これは羽島の調査中に聞いた事なんだが――」
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