第24話
チャイムが鳴り授業の終了を知らせる。
「じゃあ今日はここまで。号令!」
教科担任の指示と日直の「起立」の声と共に過去を遡っていた思考から戻る。
慌てて立ち上がり「礼」の号令に合わせてお辞儀をして着席。
教科担任は教室を出て行き、十分休憩に入る。
教室の生徒達がそれぞれトイレに行ったり、クラスメイトの席に近づいて雑談を交わし始める。
「なぁ景吾っ!」
いつもなら、午後の授業中は大体寝ている隼人が話しかけてきた。
今日は珍しく起きていたようで、眠そうな素振りは見えない。
「なんだ?」
授業をまともに聞いていなかったかわりに、羽島の事と過去の出来事について思考を巡らせていたために疲労交じりに返事をする。
「景吾、昼休みの事考えてたろっ?」
「ん? まぁな……」
「やっぱなっ! ずっと外見たまま、ボーっとしてたしっ!」
真後ろの席から見ても俺の背中しか見えない。それにも関わらず、考え事をしていた事が分かる程に、俺は沈思黙考していたようだ。まぁ、過去の事も考えていたが、それは置いておく。
「そういうお前も、珍しく起きてたんだな」
「そりゃあ、竜輝の悩みを聞いちまったからなっ! 気になっちまって……景吾もそうなんだろっ?」
「そうだな、聞いちまったからにはどうにかしたいって思ったかな?」
本来の目的は、木下の相談事。
羽島竜輝がオタクであるかの調査及び、オタクであった場合は二人を引き合わせる。
調査は完了した。羽島はオタクではない。
その時点で木下の相談は終了。後は報告をするだけ。そのはずなんだが……。
羽島本人から、調査として接近した際に聞いた悩みと、木下が相談を聞く中で打ち明けた悩み。それが同じというか、似ているようなところが気になる。
「どうにかしたいか……うん、景吾らしいなっ!」
そう言って、一人で納得したような隼人。
「俺らしい?」
意味が分からず、笑顔の隼人に聞き返す。
「景吾ってさ、他人の悩みとか考え方とか、素直に聞き入れるだろっ? その上で景吾らしい事やったり、考えを言ったりするからなっ!」
素直に聞き入れる?
確かに、俺は他人の価値観というものは尊重しようと思っている。それは、転生する前と変わらない。
「なのにこの前、コウタとシュウジと話してる時にさっ! いつもと違うっていうか……景吾らしくなかったような気がしたけどっ! さっきの言葉を聞いて、やっぱ景吾はこうじゃないとなって思ったなっ!」
「ん? よくわからないんだが? 俺はいつも通りだろ」
隼人の説明を聞いても実感が沸かない。
コウタとシュウジと話している時。たぶん、中庭で昼食をとっている時の事だと思う。
俺はその時も、いつもと変わらずに話していた……と思う。しかし、隼人はいつもと違っていたと言う。
「そうか? あの時、コウタとシュウジと話してる景吾は、相手に合わせているだけに思ったけどなっ! 勘違いかっ?」
首を傾げながら、疑問符が次々と頭から浮かび上がるような顔で話す隼人。
自分でも上手く説明できないようだ。
六限目を知らせるチャイムが鳴り、教科担任も教室に入ってくる。
雑談している生徒も教室の外にいた生徒も自分の席に戻り始める。
席順が前後の俺と隼人も、席に座ったまま話していたがそれを中断する。
日直の号令で授業が始まり、再び授業そっちのけで思考を巡らす。
今度は思考の対象に、隼人に言われた事が追加された。
隼人は、さすがに睡魔の限界を迎えたのか、授業開始から程なくして眠ってしまった。
隼人の言葉が引っかかったまま、放課後を迎えるまで判然としない気分は続いた。
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