第2章
第16話
この世界で初めての登校から二日が経った。いつもと変わらず、隼人と中庭で昼食を終えて教室に向かう途中、隼人の様子がいつもと違った。
「やっぱデザイン的にはアメリカンがいいんだけどよぉ!」
ポケットに手を突っ込み、不自然に肩を揺らしながら歩く隼人。
「サイズを考えると、無難にスクーターの方がいい気もするよなっ!」
「まずは免許取ってから考えろよ」
隼人はどうやら、バイクに興味を持ち始めたらしい。
「モチベーション的に、乗りたい相棒を決めてからの方がいいと思わねぇかっ?」
俺たちは現在高校二年生。確かに二輪免許を取得できる年齢ではあるが……。
「一応言っとくけど、うちの高校バイク禁止だからな」
「えっ⁉ そうなのかぁ⁉」
知らなかったようだ。
「もし禁止されてなくても、真似してノーヘルとかするなよ。あと、その歩き方やめろ」
最近見たという、派閥争いを繰り広げる不良学生たちの青春と友情を描いた映画に影響されたようで、不良学生たちが乗り回すバイクにまで興味を持ったようだ。変な歩き方をしているのもそれが影響らしい。
「確かに、歩きにくいもんなぁ!」
隼人とは高校からの付き合いだが、一年の時から四個ほど趣味を増やしている。春休み中に釣りを加えて、今回のバイクで五個目に突入だ。
映画を見て影響されたり趣味を増やしたりして、熱しやすく冷めやすいといった感じだが。本人曰く、次々と興味の沸くものが増えるだけで、飽きたりするわけではないらしい。
さすがに、エレキギターを始めた時に「メジャーデビューを目指すぜっ‼」というのは早々に諦めたようだが。
他人からすれば、飽きっぽいと思われがちだが、俺としては色んな事に興味を持ち、自らそれを体験しようとする所は好感がもてる。
「今度は不良を目指すとか言うなよ?」
「景吾、俺と一緒にこの学校を制覇しないか?」
拳を突き出し、真っ直ぐな視線をこちらに向ける。
「するわけないっ‼」
突き出された拳を、俺は平手で払いのける。
いつも通りのくだらないやり取りを繰り広げながら教室前にたどり着く。
俺たちが在籍する二年三組の教室前。そこにもいつもと違う光景があった。
「それじゃ、彩也香ちゃん頼んだよう~‼」
三組の教室前の廊下。そこに、彩也香と三組ではない女子生徒が話しをしていた。
俺たちからは後ろ姿しか見えないが、背中まで伸びた明るい茶色の髪。それを低めの位置で二つに括り、毛先にはウェーブがかかった髪型の、教室では見慣れない女子高生の姿があった。
「伝えておくね。たぶん、放課後になると思うから」
彩也香がそう答えると、こちらを振り向く事なく「りょ~‼」と、返事のような言葉を漏らして、彩也香の横を通って立ち去った。
「彩也香、今のは?」
彩也香に近づき、今しがた立ち去った派手めな女子生徒について問いかけた。
背中を向けていた女子生徒と違い、俺たちがいる事に気付いていた彩也香は、問いかけに戸惑う事なく答える。
「さっきの子は、木下瑞穂ちゃんだよ。去年同じクラスだったの」
木下瑞穂は、今時では珍しいギャルと呼ばれる派手な格好をした生徒だ。
同じクラスになった事も話した事もないため、どんな人物かは知らないが、見た目が派手だからか大人しい生徒からは敬遠されている印象だ。
彩也香に頼み事をしているようだったが……。
「何か頼まれ事か?」
「その事なんだけど……けいちゃん、今日の放課後空いてる?」
「特に予定はないけど?」
問いに対して、また問いかけられる。
先ほど「放課後になると思う」とか言っていた事と関わりがありそうだが……。
「それじゃあ今日の放課後も、例の、お願いできる?」
例の? その瞬間、頭の中に記憶が浮かんできた。
元いた世界との相違点。それに出くわした時に起こる現象。新堂と出会った時と同じ感覚が再び起きた。
なるほど、浮かんでくる記憶で理解した。
「放課後だな。分かった」
この世界の俺、そんな事してたのか……。
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