第14話

「――それで見てみたら四つとも焼きそばパンだったんだよ!」

「ふふっ! 三ツ矢君らしいね!」

 ミルクレープを食べ終え、残っている飲み物を少しずつ消費しながら、二人で話しに花を咲かせていた。

 俺の正面に座る彩也香は、目を細めて笑い、両手でカップを持ち上げて口元に運ぶ。

 その姿はおしとやかで、綺麗より可愛いと言うのが当てはまるだろう。

 昔から人当たりが良く、友達から相談事を持ちかけられたりした際には、真摯に向き合い満足するまで話しを聞いてあげたり、分け隔てなく人と接している。今朝のように俺には少し強きな所もあるが……まぁ、それは俺たちの関係が特別だからだろう。

 特別といっても、大げさなものではない。俺と彩也香は幼馴染み、物心つく前からの付き合いで、もはや妹とすら思っている。

 この世界でも関係性は変わってないようで安心した。

 俺にとって大切な人。高校一年生より先でも、こうして一緒に過ごせるとは思わなかった。

「けいちゃんは新しいクラスどう?」

 カップを両手で持ったまま、昼休憩の時、中庭で聞かれた事と同じ質問をされた。

「まだ初日だからな~、彩也香もいるし悪くないんじゃない? ついでに隼人もいるし!」

「三ツ矢君面白いもんね。今日だって、ほとんどの授業寝てたし」

 寝てたら面白いってのもどうかと思うが……。

「彩也香はどう? 新しいクラス」

「楽しいよ。今年はけいちゃんと同じクラスになれたし。ついでに三ツ矢君も!」

 悪戯っぽく笑いながら答える。例えその場にいなくても、存分に存在感を発揮する隼人。ムードメーカーとしての実力は大したものだと感服するほかない。

「そういえば、けいちゃんは去年も新堂先生だったよね?」

「ん? まぁな」

 思い出したように疑問を投げかけてくる彩也香。

「どんな人なの?」

「どんな人……か」

 正直、答えにくい質問だ。

 新堂渉は、この世界の相違点。去年から同じ担任という事になっているが、元いた世界では存在すら知らなかった。むしろ、そんな教師はいなかったと思う。

 職員室で初めて会った時、頭の中に記憶が浮かんできたが、あくまで断片的な情報として認知しているだけに過ぎない。

 初めて触れた物の感触、それが時間の経過と共に記憶から薄れていくように、その時々の感情までは鮮明さを失っている。

 浮かんできた記憶に違和感は無い。だが、それだけだ。

 その時の感動まではいまいち実感が薄い。

 この世界の俺が、新堂に抱いていた感情。そこまでは上手く実感出来ていない。

 この流れで「分からない」と答えるのは不自然だ。あくまで、浮かんできた記憶を頼りに、曖昧ながらも答えるしかない。

「案外いい人だと思うぞ……」

 今朝の事もそうだ。職員室にクラスを聞きに行った時も、他の教師たちが自分の仕事にかまけて俺を放置していた時、声をかけてきたのは新堂だけだった。担任だからというのもあるだろうが、どちらにせよ生徒に軽口を叩くようなフランクな教師が、それほど悪い人とは言い難いだろう。

「う~ん、例えばどんなところが?」

「そうだな~、俺とか隼人にはたまに軽口を叩いてきたりするけど、大人しいやつには割と穏やかな感じで話したりしてるところとか?」

 人によって態度が違う。と聞くと、感じ悪いように聞こえるが新堂の場合は違う。人によって適した対応をとっているように感じる。

 大人と子供で話し方を変えるように、相手に合わせて態度を変えている。そんな感じだ。

「そうなんだ。良かった」

 彩也香は安心したようにそう言った。

「悪い評判でもあるのか?」

「友達のミキちゃんがね、新堂先生は喫煙者だから悪い人だ。って言ってたんだけど、けいちゃんがそう言うなら安心だよね」

 屈託のない笑顔を浮かべる彩也香。

 人の言葉を疑わなさ過ぎるのはどうかと思うが、どちらかというと、ミキちゃんって子の評判の方が気になるぞ……。

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