第13話

 俺たちが通う高校の近くにある大型ショッピングモール。そこは俺の通学路の途中にあり、食品売り場や飲食店、ファッション系の店やアミューズメント等、あらゆる店舗が施設内に軒を連ねている。

 どちらかというと田舎に分類されるこの地域では、学生が遊ぶ予定を立てる際、行き先にはとりあえず候補にあがるような場所でもある。

 下校途中、俺の隣を歩く彩也香が「せっかくだから」と言って、そのショッピングモールへの寄り道を提案してきた。

 早く帰らなけばならない予定も断る理由もないため、その提案を快く受け入れた。

 何か購入するわけでもなく、モール内で洋服や雑貨を物色しながら、学校の外で過ごす、二人だけの時間が流れる。

 興味を惹くような物は一通り見終わり、モール内の喫茶店で一息つく事にした。

 注文カウンターでメニュー表を眺めながら、店員に注文を伝える。

「カフェラテ一つ……彩也香は?」

「えっとね……ホットココア、あと……ミルクレープで!」

 注文を伝えて二人分の代金を支払う。しばらくして、注文した商品を乗せたトレーを受け取り、店内の奧へ移動する。

 窓際にある二人席に、彩也香と対面して腰を下ろす。

 学校から歩いてきた事に加え、そのままモール内を歩き回ったため、腰を下ろした瞬間に脱力したような感覚が身体を支配する。

 窓際の席は、入り口から離れているため、モール内を行き交う人々の雑音は遠ざかり、店内に流れるジャズ調の落ち着いたBGMが心地よく耳に届く。

 疲労による脱力感とBGMの効果も相まって、ゆったりとした時間が流れる。

「私の分いくらだった?」

 リラックス気分に浸っていると、バッグから財布を取り出した彩也香が問いかけてきた。

 会計は俺が二人分まとめて支払った。俺は奢るつもりだったが、彩也香は自分の分はちゃんと支払おうとしているようだ。

「いいよ、俺の奢りで」

「ダメだよ! 私の方が多く注文してるし……」

「いいって、今朝のお詫びって事で」

 怒らせるつもりは無かったとはいえ、結果的に怒らせた上に、悲しませもした。そんな姿を見せられればさすがに罪悪感もある。

 俺としては、一緒に帰るだけでその罪悪感を精算した気にはなれない。せめてもの罪滅ぼし、といったところだ。

 俺にそう言われて財布を仕舞うものの、納得はしていないらしく、フォークでミルクレープを一口分すくい取り、こちらに差し出してきた。

「じゃあ、けいちゃんも一緒に食べて」

「うん? あぁ、わかった……」

 カフェラテの入ったカップ。それに添えてあるスプーンで、ミルクレープを一口分すくい取って口に運ぶ。

 一口噛めば幾重にも重なったクレープ生地が口の中で解け、なめらかなクリームが行き渡る。しっとりとした生地に甘く濃厚なクリーム、それらを口の中で堪能して、名残惜しさを感じつつも喉に流し込む。そして一言。

「食べないのか?」

 俺がミルクレープに舌鼓を打つ間、彩也香はこちらにフォークを差し向けたままだった。

「食べますっ!」

 何故か顔を背けてからフォークを口に運ぶ彩也香。その素振りからして、不機嫌な事は伺えるが身に覚えが無い。

 俺は疑問符を浮かべたまま彩也香の様子を伺うと、ミルクレープを一口食べてから微笑んでいる。まぁ、特に問題はなさそうだ。

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