第3話

「――という事だけど、理解は出来たかな?」

 説明を終えて、こちらの把握状況を確認してきた。

「少し状況を整理させてくれ」

 神様みたいなものと自称する謎の存在は、俺の要望を聞き入れて「了解~」とだけ返した。

 生前に培った知識や常識、それらに例えて説明してくれたおかげで、いくらか呑み込む事は出来た。しかし、一度に聞かされたために、それらを整理して受け入れなければならない。

 まずは、的を射ているという輪廻転生だが。俺の知っている、六道というものはなく、生命を終えた魂は、例外を除いて、違う世界の別の生物に、ランダムに宿るという事らしい。そして、違う世界というのが、枝分かれした複数の世界。いわゆる『パラレルワールド』の事を指すらしい。

 説明を受ければ、輪廻転生が的を射ているというのも頷ける。

 例外という事に関しては、俺の状況がそれに当たるようだ。

 違う世界に転生する、という事に関しては同じだが、俺の場合は、違う世界の俺の身体に、記憶を引き継いだまま転生するらしい。

 何故このような例外が起きているかというと、違う世界の俺が、近いタイミングで生命を終えたために、魂が入れ替わるようだ。

 死亡が確認された後、息を吹き返したという過去の事例は、これが原因のようだ。そんな事、滅多に起こるものではないようだが。

「質問してもいいか?」

「なんだい?」

「入れ替わるっていう事は、俺の身体に違う世界の俺の魂が宿るのか?」

 単純な疑問だ。入れ替わるというなら、違う世界の俺も同じ状況にある筈だ。

「入れ替わるのは、君だけだよ」

「何でだ? 俺だけ一方的に転生するって事か?」

「飛び降り自殺で身体がグチャグチャになった君と違って、違う世界の君は、交通事故による心肺の停止が死因。怪我はしているけど、身体はキレイなままだからね。」

 そういう事か、入れ物が無ければ入れ替わる事が出来ない。といったところか。

 違う世界の俺には気の毒な思いもあるが、違う世界とはいえ、俺の事だ。俺が自殺した後の世界に放り込まれなくて済んで幸いかもしれない。

「他に質問はあるかい?」

 俺が納得したのを見計らって、他の質問を促される。

 質問か……。

「一応聞くけど、転生を拒否する事は出来るのか?」

 自殺の選択をした俺が、再び俺として生きていく。ある意味では、自殺に失敗したようなものだ。似たような世界に転生するなら、また同じ結末を迎えるかもしれない。もしそうだとしたら転生する意味もなく、全く違う生命として生まれ変わった方が速いと感じた。

「してもいいけど、僕が許可するかは別の話だね」

「それって、拒否権は無いって事だな?」

「うんうん。よく分かってるじゃないか」

 言葉だけが浮かんでくるだけだが、妙に陽気な返答に感じる。

「そうか。じゃあもう好きにしてくれ。意識だけがあるっていうのは変な気分だ」

「この場にいる事は、中々できない体験だけどいいのかい? 自慢できるよ?」

「できれば体験したくない事だろ」

 そもそも、自慢したところで信じてもらえそうにないだろう。

「僕としても名残惜しいんだよね。ここに魂が導かれる事は、滅多にないからね。ましてや走馬灯の最中に、たけのことか、きのことか考える人は見たことがないからね、興味深い」

「何でそんな事まで知ってるんだよ⁉」

 確か、落下している最中に頭に浮かんでいた事だ。あれが走馬灯か……。

「趣味みたいなものさ、ここに導かれる魂の事は知っていないといけないっていうのもあるけどね」

 人の頭の中を覗くのが趣味なんてのはどうかと思うが……。

「なんだか気味が悪くなってきたよ。もういいから転生でも何でも初めてくれ」

「そんなにやましい気持ちは無いんだけどね」

 そんなにって事は、少しはあるのかよ。

「じゃあ、心の準備はいいかな?」

 神様みたいなものと自称する謎の存在の発言に辟易しながらも、指示に従って気持ちを切り替える。すると、意識が遠ざかるような感覚に襲われた。死ぬ直前の時と似た感覚だ。

「あっそうだ! 一つ言い忘れた事があった」

 眠るように意識が薄れていく最中、思い出したような言葉が流れてくる。

「これは忠告というか、朗報かな? これから転生する世界は、君が自殺という選択をしない世界。もしくは、自殺する必要がない世界というべきかな?」

 意識が遠ざかり、流れてくる言葉に返答する気力が沸かない。

「まぁ、君にとっては都合のいい世界かもしれないね。楽しんでおいで」

 その言葉が浮かぶのを最後に、俺は再び意識を手放した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る