第21話

「では、最後の三つの呪文じゃ」

 大夫たいふはさっと筆をとり、言った。



「『謝』。ごんべんに身体の身に一寸法師の寸を横に並べる」

「『率』。なべぶたに糸の上だけ。ちょんちょん、ちょんちょん、下に十」

「『酸』。酒のさんずいがないものを書く。ムの下に八の右を曲げてとめる。下にノを書いて又の口が開いたのをくっつける」



「この三つ、特に苦手な漢字かも。なんか、よくわからなくて」とおれ。

「うん、難しいよね」とジュン。

「でさ、『酸』はさ、理科でもよく出てくるからいやだったんだよ。書けなくて」

 とおれが言うと、レイアちゃんも「わかるー」と言ってくれた。


「呪文を唱えて覚えるがよいぞ」

 大夫は、にかっと笑って言った。

「うん‼」

 おれたちは呪文と唱えながら、「謝」「率」「酸」と書き、大夫の筆はぴかーんと光った。



 そしておれたちは今日書いた漢字を見て、呪文をもう一度唱えた。



「『識』。ごんべんを書く。立つの下を長く伸ばし、日を書く。そってはねて、ノを書いて、点」

「『解』。つのに刀に牛。つのの下はつき出ない、牛はつき出る」

「『許』。ごんべんに、午前午後の、。つき出ない。うしはつき出る、うまはつき出ない」


「『容』。うかんむりに谷」

「『制』。ノを書いて二を書く。巾のたて棒を二の上に飛び出して書く。横にりっとう」

「『総』。いとへんにハムに心」

「『液』。さんずいの横に夜を並べる」

「『築』。たけかんむりにエに凡。下に大きな木」


「『営』は、ツにワに口二つをノでつなぐ。『堂』は光の上を書いて、ワ、口プラス土。『官』はうかんむりに、たて棒にコとコ」

「『俵』。にんべんの横に表」

「『桜』。きへんの横にツに女」

「『接』。てへんに立つに女」


「『編』。いとへんに戸の中にかこいをはねて書いて、横たてたて」

「『衛』。ぎょうがまえの間に五の上の横ぼうがないのを書いて、口を書いて、年の中身」

「『属』。戸の一がないものを書く。ノを書いて、虫にはねるかこい」


「『綿』。いとへんに白に巾」

「『夢』。くさかんむりに横にした目、細長いワの中に夕」

「『雑』。九の下に木、横に進むのしんにょうのないのを書く」

「『確』。いしへんの横に細長いワを書く。ワにつき出るノを書いて、そのまま進むのしんにょうのないのを書く」


「『謝』。ごんべんに身体の身に一寸法師の寸を横に並べる」

「『率』。なべぶたに糸の上だけ。ちょんちょん、ちょんちょん、下に十」

「『酸』。酒のさんずいがないものを書く。ムの下に八の右を曲げてとめる。下にノを書いて又の口が開いたのをくっつける」



 大夫の筆がぴかーん。ぴかーんと何度も光った。


「呪文で覚えるっていいね!」

「そうじゃろそうじゃろ」

 フリクションの青色で書いた漢字も、なんだかいつもよりきれいに見えた。

 ジュンもレイアちゃんも笑顔で勉強をして、楽しそうだった。


 漢字を覚えることがこんなに楽しいなんて、知らなかった。

 ありがとう、大夫! ありがとう、ジュン、レイアちゃん!

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