第6話 幼なじみと歓声

 午後の授業は体育館で、男女別れてのバスケだった。


 僕は壁に寄りかかって座りつつ、他チーム同士の試合をぼんやりと眺める。


「まあ、男女混合にならなかっただけマシってことで」


 僕は言いつつ、体育館を真ん中で分けている緑ネットの向こう側をチラリと見やる。


 クラスの女子らも同じバスケの試合を行っており、歓声が飛び交う。


 須和田さんは長髪をポニーテールにし、淡々とドリブルでゴールを目指していく。


 対するチームには大野さんがいて、懸命そうにボールを奪おうとしていた。


 と、二人をじっと見ていた自分に気が付き、慌てて目を逸らす。


「気になる?」


 声をかけられ、振り向けば、メガネをかけた弥市が顔を移してきていた。爽やかな雰囲気と容姿を醸し出しており、二人の女子から好意を寄せられるだけある。と、僕は改めて思った。


「まあ、それは……」


「楓は朝に伝えてからも、表向き、何も変わってないように見えるよ。けど」


 弥市は間を空けると、メガネを外し、体操服の裾あたりで両側を拭く。


「やっぱり、そのう、ショックを受けてることは傍から見ていてもわかるよ。今も」


「今も?」


「うん。幼なじみだから、そういう微妙な変化とか、何となくわかるしね」


 弥市はメガネをかけ直すと、ふうとため息をつく。


「拓斗はこれでよかったと思う?」


「曽谷先輩と付き合い始めたことが?」


「それは僕が好きだったから、念願叶って、すごく嬉しいし、後悔とかは特に。どちらかと言えば、楓に付き合っていることを隠し続けた方がよかったかなって」


「いや、それはあっちも幼なじみだから、そういうこと、いずれ気づくんじゃ?」


「でも、付き合い始めたのは二週間前くらいからだけどね」


「つまりは、須和田さんは隠していても、そう簡単に気づかないだろうってこと?」


「むしろ、心配なのは拓斗」


 弥市は僕の肩を小突く。


「楓から問い詰められて、すぐに言っちゃいそうだからね」


「それを否定できない自分が悲しいけど」


 僕は口にしつつ、苦笑いを浮かべる。


「でも、これで色々と踏ん切りがついたから、よかったって思うしかないかなって」


「踏ん切りね……」


「まあ、曽谷先輩は次期生徒会長になる人だし、自分が何も言わなくても、自然と校内で付き合ってることが広まるのは時間の問題かなって」


「次期生徒会長とはいえ、曽谷先輩って、そんなに有名だっけ?」


「有名だよ。いろんな部活の助っ人とかでも活躍してるみたいだしね。その代わり、生徒会の仕事がおざなりになったりして、中山先輩がいつも怒ってるけど」


 中山先輩こと、中山涼花は現生徒会長の三年生だ。確か、一か月後にある生徒総会をもって引退とかだったような。


「でも、曽谷先輩、やる時はきっちりと仕事を片付けるからね。すごいよ。まあ、そんな色々な面を生徒会の仕事を手伝っている内に惹かれていったっていうかな」


 弥市は話しつつ、はにかんだ表情を浮かべ、誤魔化すかのように頬を掻いた。


「とりあえず、拓斗には今度、紹介するよ」


「曽谷先輩を?」


「うん。後、楓とはしばらく距離を置こうかと思って」


「じゃあ、今日の帰りは曽谷先輩と?」


「いや、曽谷先輩はサッカー部の助っ人に出るみたいだから」


 弥市は答えると、僕と目を合わせてくる。


「だから、まあ、生徒会庶務の仕事は今日もあるわけだけど……。楓がもしかしたら、いつものように待っていているのかなあって」


「何となく、弥市が言いたいことはよくわかった」


「悪い、拓斗」


 両手を重ねて僕の方へ頭を下げてくる弥市。


 僕は「いいって」と顔を上げるように促す。


「その代わり、今度の昼、学食で何か奢ってもらうってことで」


「わかった」


 うなずく弥市に、僕はさて、何を奢ってもらおうかと学食のメニューを思い出す。


 須和田さんのことについては一旦、頭の片隅に置いておこう。


 と、体育館を仕切る緑ネット側から女子らの歓声が上がる。


 見れば、須和田さんが大野さんのディフェンスをかわし、シュートを決めたところだった。

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