ブクロ最凶

???「すみません、お兄さん。少し良いですか?」


『え、オレッスか?』


先日切り裂き魔に襲われてから、オレは何があろうとすぐに帰るように心がけていた。


そんな時、ふと声を掛けられた。


???「お聞きしたい事がありまして……」


見知らぬ男に声を掛けられて少し警戒するが、その容姿を見てオレは首を傾げた。


古コートを身にまとう男は、何処か見覚えがある。


(はて、知り合いだっただろうか?)


???「あ、すみません。私こういう者でして」


適当に断ってさっさと帰ってしまおうと思っていたのだが、名刺を渡されてなんだか言い出せなくなる。


『はぁ……』


押し付けられた名刺に目をやると、懐かしい名前に思わず頷いた。


(あー……なるほど。この人が贄川周二)


全然忘れてしまっていたけれど、どうやら彼が贄川春奈の親父さんらしい。


『それで、どうされました?』


贄川「はい。実は、この池袋で最強っていったら誰なのかっていうのを聞いて回ってまして」


『あー……』


やっぱりこの質問か、と、頭を悩ませる。


『それはまた……随分抽象的ッスね』


贄川「あはは……すみません。貴方の思う最強でいいので」


適当だな……と乾いた笑みを漏らしながら、最初に思いつく人物の名前を言う。


『うーん、やっぱりセルティさん?』


デュラララ‼の主人公である彼女はやっぱり外せないだろう。


彼女の影を操る力はおそらく普通の人間じゃ勝てない。


何よりあの不思議SFトンデモ物体(命名by新羅)は、訳の分からない力だからこそ人々は恐怖を感じる。


(……前回のダラーズの集会の派手な登場で、少しは和らいだかもしれないけど)


贄川「セル…?」


首を傾げた目前の男を見て、慌てて口を噤む。


『す、すんません。首無しライダーです』


贄川「あぁ。あの都市伝説の。確かに得体のしれない物は恐ろしいですもんね」


(セルティさんは優しくて可愛くてとっても良い人だけどね)


本当は彼女の魅力について目一杯語りたかったのだが、流石にまずいだろう。


彼女は都市伝説と言われているし、そもそも妖精だし、基本的に人に注目されてはいけないのかもしれない。


それに――。


新羅「みんなにセルティの魅力がバレちゃったら僕は失魂落魄!!絶対駄目だからね!!」


――なんて新羅さんの声が聞こえた気がした。


『他には、力で言ったらサイモンさん?』


話題を転換させるために新たな人物の名前を挙げる。




デュラララ‼のイベントで【作中強い人ランキングってどんな感じですか?】という声優さんの質問に、横○朱子プロデューサーが【静雄とサイモンが同レベルで一位です】と言っていたのを思い出した。


贄川「サイモン?」


『あ、知りません?この近くで寿司屋をやってるロシア人の』


贄川「あ、あぁ。見た事あります」


確かビラをよく配っている……と言った贄川周二に相槌を打つ。


『あの人、実は結構凄いんですよ。静雄と対等に渡り合える人だと思います。平和島静雄は知ってますよね?』


贄川「はい、取材で何度か耳に……」


『でも、静雄は本当はとても優しい人なんですよ。甘いものが大好きで、彼がプリンが大好きなんです』


思わぬ情報に目を丸める贄川周二。


そうでしょう。静雄はめちゃめちゃギャップ萌えなキャラクターなんですよ。


贄川「えっ、そうなんですか?というか、彼と親しいんですか?」


『まぁ、そうですね。友人ッス』


贄川「す、凄いですね……普段は温厚な彼はどうして恐れられているんでしょう?」


『自販機投げたり標識引っこ抜いたりするからじゃないッスか?』


贄川「えッ」


けろりとそう告げると、贄川周二は顔を引き攣らせた。


結構池袋じゃ常識だと思うけどなぁ。静雄が何でもかんでも投げちゃうの。


『でも、そんな彼を怒らせる折原臨也って人もある意味最強かもしれませんね』


贄川「オリハラ…?」


『新宿に住んでる情報屋ですよ。いつも静雄と喧嘩をして池袋の街を壊しているので、二人は“絶対に近づいてはいけない人物”って言われてるんです』


贄川「ぜ、絶対に近づいてはいけない……」


ゴクリと唾を飲む男に、私は続ける。


『二人は犬猿の仲で、顔をあわせたらすぐ喧嘩です。もう四六時中喧嘩。だから、一部では“24時間戦争コンビ”なんて言われてます』


もしかしたら二人のこんな呼び名があるのは現世だけかもしれない。


もしそうならこっちの世界でも是非広めてもらおう。


狩沢さんあたりが喜んでくれそうだ。


贄川「あの、その折原臨也さんについて詳しく……」


『あ、すんません。そろそろ行かないと。お仕事頑張ってくださいね!』


流石に帰らないと臨也さんに怒られてしまう。


それに後々御本人からお話を聞くのだから良いだろう。


……あぁ、その前に静雄を怒らせてジャイアントスイングされるんだっけ?


(ご愁傷さま、頑張ってください)


まだ話を聞き出したそうな贄川氏に軽く会釈をして、オレはその場を去った




『ただいまですー』


臨也「おかえり」


いつもの如く愛用のデスクで仕事をしている臨也さんをよそ目に、急いで夕飯の支度をする。


帰り道、たまたまインドカレー屋さんの匂いを嗅いでしまったので、今日の夕食はカレーにすると決めた。


トントンと包丁の音だけが響く。


臨也「今日は何?」


いつの間にか側に来ていた臨也さんに少しびっくりする。


毎度のことながら気配を消して近づいてくるのはやめて欲しい。


『今日はカレーです。オレの気分がそうだったので』


臨也「うんうん、いいんじゃない?カレーって個性出るし、俺は好きだよ」


『……あの一応言っときますがスパイスから手作りとかじゃないッスよ?全然バーモンドカレーのルー使いますからね』


臨也「別にそこまで求めてないよ。でも他にも色々あるじゃないか。人参の分厚さとかじゃがいもの煮崩れさとか」


『なるほど……』


さすが人間観察が趣味なだけある。


目の付け所がディープすぎる。


『……えと臨也さん?』


話が終わっても定位置に戻らない臨也さんに声をかける。


臨也「ん?」


『いや、そんなに見られると恥ずかしいと言うか』


臨也「いやいや。改めてこうやって深夜が料理作ってるのを見るのも良いもんだね。なんだかお嫁さんみたいでさ」


『はッ!?……っぅ、』


突然の発言に誤って包丁で手を切ってしまう。


臨也「大丈夫?」


『臨也さんが突然変な事言うからですよ!!もう……』


思っていたより傷が浅くて助かった。


急いで洗おうとシンクに近づいた時、隣に居た臨也さんに手を引っ張られる。


……かと思えば、臨也さんは何を思ったのか、突然傷口を舐め始めた。


『なッ、あッ!?な、何してるんッスかッ!!』


突然の出来事にくちをはくはくとさせてしまう。


自然と顔に熱が集まるのがわかった。


急いで指を引っ込めようとしても、私の手首を掴む臨也さん手がそれを許さない。


ざらざらとした舌で舐められる感触に、背中がゾクゾクとする。


『……んっ、ぅ……』


(なにっ、これ……!)


思わず溢れた甘い声に驚いて、開いている手で慌てて口を覆う。


不思議な感覚に思わず涙が出てくる。


オレの反応がよほど面白かったのか、臨也さんはいつもの意地悪い笑みで私の顎を持ち上げた。


『な、何するんですか……!!』


必死の抵抗で睨むも、臨也さんには通用しない。


「……可愛い」


『!?』


そう甘い声で囁かれたのは幻聴なのか。


目前の男が本当に折原臨也なのか、と困惑する。




『え、ちょ、あのっ!?』


(もしかして誰かと勘違いしてる…!?それとも何!?欲求不満なの!?)


目前で優しく微笑むこの男は、一体誰だ。


知らない。こんな折原臨也、原作でもアニメでも漫画でもゲームでも見た事無い。


最近……というか、ここ数ヶ月。


臨也さんがオレを見る目が変わってきている――というのも、観察対象から同居人として少しは優しさの籠もった目を向けてくれている――事はわかっていた。


でもなんだか、昨日の事と言い、なんだか最近とてつもなく甘い。


それはもう、BL漫画みたいな甘さだ。


これはなんだ。


もしかして新手の人間観察?


オレが慣れていないそっち方面で虐めてオレの反応を楽しんでいるのか?


人が変わったかのような臨也さんに、オレは目を回す。


臨也「深夜」


目の前の、とろりと蕩けた赤い瞳と目が合う。


視線をそらそうとしても、顎を固定されてどうしようもできない。


端正な顔がゆっくりと近づいてくる。


(はっ、えッ!?)


まさかと思いぎゅっと目を瞑る。



 


 


 


 


 


 


 


 


 



――ピンポーン。


 



 


 


 



 


 


 


 


 


無機質な音が、室内に響き渡る。


臨也「ッチ、変なところで邪魔しないでよ、全く」


臨也さんは苛々とした態度を隠さずに応対に向かう。


『――た、助かった……』


完全に腰の抜けたオレは、しゅるしゅると足から崩れ落ちる。


先程の甘ったるいほどの声が、耳に焼き付いて離れてくれない。


『な、なんだあれ……』


頬に手を当てても、火照った頬はまだ冷めない。


そしてなにより……。


(なんで……オレ今、受け入れようとしてたのか……)


本気で嫌がれば、きっと臨也さんは止めてくれた。


それに、近くにある包丁に手を伸ばせば逃げられたはずなのに。


ただ一つわかる事は――。


(――嫌じゃなかったって事……)


触れる直前だった唇をそっと指でなぞって、また心臓がドクドクとうるさく音を立て始めた。



臨也「さぁ、とりあえず中にどうぞ」


他所行きの臨也さんの声が聞こえて、オレは慌ててキッチンに身を隠す。


お客さんが来たなら、こんな赤くなってる顔なんて見せられないし、なんなら恥ずかしくて臨也さんの顔も見られない。


なるべくそちらを見ないようにしながら、カレー作りに励む。


臨也「それにしても、よくここがわかりましたね。俺の住所を知っているのは、相当なお得意さんだけなのですが。一体誰からお聞きになったんです?」


(……ん?)


聞いたことあるセリフに思わず顔を上げる。


???「いや……それは秘密という事で……」


つい数時間前に聞いたような男の声。


臨也「おや?これはこれは。情報屋に秘密ときましたか」


面白そうに嗤う臨也さんの視線の先には、贄川周二が居た。


(あ、そうだった。完全に忘れてた)


夕方あったなら普通に考えて今日訪問に来るよね。


オレは急いで来賓用のお茶を出す。


臨也「……あぁ、そういえば。お嬢さん、最近元気ですか?」


贄川氏「っ!?」


臨也「粟楠会の四木さん、いい人だったでしょう?」


贄川氏「なッ、なぜそのことを……!!」


臨也「いやぁ、舐めてもらっちゃ困りますよ。こっちは情報屋を生業としているんですから」


にこり、と微笑む臨也さんに、贄川氏は顔を強張らせながら萎縮している。


匂わせどころではない完全なる脅し文句にため息を吐きながら、邪魔にならない様にそっとお茶を置く。


臨也「ありがとう」


贄川氏「あ、ご丁寧にどうも……あれ、貴方は……」


ここでバレなきゃ適当にやり過ごせたのだが、流石につい先ほど会ったばかりだとオレの顔を覚えていた。


『えぇっと、数時間ぶりです。結局会いに来ちゃったんッスね… “絶対に関わってはいけない人”に』


呆れたように笑うと、贄川さんもあはは、と情けなく笑った。


臨也「深夜、知り合い?」


『帰り道に取材されたんッス。“池袋最強は誰か?”って』


「ふぅん」


臨也さんは微塵も興味なさそうに相槌を打つ。


贄川氏「それで、情報屋の折原臨也さんに是非ともお話を聞かせていただきたいと」


臨也「なるほど。池袋最強、ねえ。 あの街で強い人はそれこそゴロゴロいますけど……。


そうですねえ、一人だけっていうなら……。


素手の喧嘩ならサイモン。 なんでもありなら――シズちゃんだなあ……やっぱり」


贄川氏「シズちゃん……?」


『平和島静雄の事ッスよ。オレが先程お話した』


贄川氏「あ、あぁ」




臨也「何?シズちゃんの話してたの?」


『はい。実は凄く優しくて可愛いって話をしました』


臨也「はぁ?シズちゃんに可愛い要素とか何一つ無いけど。っていうか、俺の前でシズちゃんの話しないで」


『へーへ……』


贄川氏「それで、その平和島さんについて知っている事を教えていただきたいのですが……」


臨也「話したくもないね。あいつの事なんて俺が知ってれば十分だ」


(!?!?)


突然の発言に思わず口がニヤけそうになる。


(くぁ〜〜〜!!!きたきたきたきた!!!!もうこれ公式カプでしょ!!!!独占欲強め臨也???そーいうこと言うからオレみたいなカプ厨がシズイザって言い始めるのよ。これは狩沢さんに情報提供しないと……!)


贄川氏「そこをなんとか……」


臨也「俺は奴が苦手だから奴の情報を知ろうとするけど。 それだって十分不快なんだよ」


顔を顰めながら答える臨也さん。


そろそろ潮時かと思い、臨也さんにこう提案する。


『それなら静雄に詳しいセルティさんに聞いてもらったらどうッスか?』


臨也「……んまぁ、それくらいなら」


臨也さんは渋々といった様子ながらも頷き、近くの紙にサラリとセルティさんの連絡先を書いて贄川周二に渡す。


臨也「そいつならシズちゃんに詳しいだろうから、そいつから聞いて」


贄川氏「……はぁ、わかりました。ありがとうございます」


臨也「それじゃあもう帰ってもらえる?」


贄川氏「あ、あの。最後に一つだけ。お二人は一体どんな関係で?」


おすおずとそう聞いてきた記者に、オレは首を傾げる。


(そういえば、オレたちって一体どういう関係?)


まさか、異世界から来て養ってもらってますとはいえない。


上手い言葉が見つからなくて返答に迷っていると、おもむろに臨也さんが口を開いた。


臨也「そうだなぁ。強いて言うなら……


 


 


 


 


 


 


 


“人には言えない関係”かな」


 


 


 


 


 


 


 


 


『!?!?』


臨也さんのセリフに、オレは顔を赤らめながら絶句する事しかできない。


贄川氏「え、えと……つまり……」


臨也「あとはご想像にお任せするよ。じゃ、話はこれで」


目をパチパチとさせ、未だ事態が飲み込めないオレと贄川氏を他所に話をどんどんと進める臨也さんは、彼を半ば無理やりと言った形で扉の外へと押し出した。






『……って、ちょっと待ってくれッス!』


臨也「ん、なぁに?」


『いやいや!なんでそうアンタは誤解を招きそうな言い方しかできないんッスか!?』


臨也「あながち間違いじゃないよ。“深夜は実は異世界からやってきた人間で、戸籍もなかった子なので俺が養ってます”なんて、他人に言えないでしょ。情報屋、折原臨也は嘘をつかないからね」


『じゃあもっと他の言い方があったはずです!せっかく血縁関係結んだんですから従兄弟で良いじゃないッスか!』


全く悪びれもしない臨也さんのパーカーをぐいぐいと引っ張りながら必死に抗議しても、効果はない。


臨也「なんでよ、別に嘘じゃないんだからいいじゃん」


『99%嘘ッスからね!?』


流石に言葉遊びがすぎる。


“人には言えない関係”って、なんかアブナイ関係と勘違いされてる、絶対。


はぁぁ、と、大きなため息をつくと、「それなら……」と、臨也さんがとある提案を持ちかける。


臨也「本当になってみる?人には言えない関係」


『……は?』


背中を抱かれると、先ほどから一気に距離が縮まり、鼻と鼻がくっつきそうなほど近くなる。


『えっあっえっ』


臨也「さっきも良い所で邪魔されたからね」


『うう、ス、STOP!待て!!』


臨也「……待て、って。俺は犬か何か?」


恥ずかしくなって慌てて目の前に手を出す。


『ちょ、一旦離れましょう?』


臨也「えー?やだ」


『なんで!!』


全く聞き入れてくれないので、仕方なくこの体勢のまま話を始める。


『なんか臨也さん、最近変ッス』


臨也「変って?例えば?俺は普通のつもりなんだけどな」


『な、なんか、甘いっていうか。ドキドキするような事ばっかするから……』


恥ずかしくなり俯きながらなんとかそう答えるオレに、臨也さんは嬉しそうに言った。


臨也「へぇ?ドキドキしてるんだ」


『……なんかむかつく』


臨也「まぁ、そうだなぁ。確かに、もしかしたら少しは変わったかもね?最近自覚したんだ」


『自覚……?何を自覚したんッスか??』


臨也さんは一瞬困ったように笑って、言葉を選ぶ様にしながら言った。


臨也「……俺は思った以上に、深夜を気に入ってるって事かな?」


『は、はぁ……そうなんですか。でも、オレはいずれ元の世界に帰るッスよ?』


そもそも、この世界に存在するはずのない萩原深夜はいわば世界のバグであり、即刻排除されるべきなのだ。


臨也「ねぇ、その事なんだけど。深夜は元の世界に帰れたら、帰りたいの?」




臨也さんの言葉に、一瞬だけ息が詰まりそうな感覚に陥った。


帰りたいかどうか。


この世界にやってきてから、みんなと関わる様になって、それなりに関係を築いてきた。


目前で、笑ったり怒ったりする姿を見て、彼らにも“生きている心”がある事を実感した。


それでも、やっぱりオレは。


 


『…はい。オレは、元の世界に帰りたいッス』


 


もう10月も半ば。


こちらにきてから、もう7ヶ月近くなる。


今向こうはどうなっているだろうか。オレの心配をしてくれているだろうか。


家族 友人 オレを取り巻く環境すべてが、懐かしい。


朝、オレを叩き起こす親父の声が、宿題をやり忘れたから写させてほしいと泣きつく親友の姿が、


彼らの元気な様子が、早く見たい。


オレは一刻も早く、オレの“日常”に戻りたい。


オレと仲良くしてくれる帝人くんに正臣、杏里ちゃん、静雄、新羅さん、セルティさん、門田さん、狩沢さん、遊馬崎さん、渡草さん。


そして、こうしてオレを養ってくれている臨也さん。


彼らと過ごした日々はオレにとって、かけがえのない時間だ。


けれど、やっぱりオレの前に居るのは、活字を挟んだ向こうに居る世界の住人。


どうしても、“キャラクター”という概念が消えないのだ。


臨也「……そう」


オレの答えに、臨也さんは諦めを含んだような顔で笑う。


オレには、どうして臨也さんがそんな顔で微笑むのか、よくわからない。


けれども、なんだかその顔を見ただけで、胸が締め付けられるように苦しかった。


臨也「さて、ご飯にしよう」


『……はい』


オレを解放した臨也さんは、優しい手付きで私の頭を撫でる。


その感触に、涙が出てきそうな理由さえ、オレにはよくわからなかった。

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