heteromorphicの足音
田中太郎【】
セットン《》
甘楽{}
Unknown[]
甘楽{ところで、みなさん!妖刀って知ってますか?}
田中太郎【妖刀?】
甘楽{そうです!妖刀!知ってますか太郎さん?}
田中太郎【知っているかって言われても……セットンさん、そういうの詳しいんじゃないんですか?】
セットン《妖刀ですかー。村正みたいな?》
Unknown [徳川家のッスか??]
甘楽{違いますよぅセットンさん、Unknownさん!あれは持っていると不幸が押しかかるっていうタイプの奴じゃあないですかぁ。ああいうのとは別の奴です!
もうマンガみたいに、持ったらその刀に操られてズバズバーッと斬っちゃうのですよぅ!}
《いや……そういうやつの名前って、たいていムラマサですよね?》
田中太郎【ムラマサブレード?】
セットン《くびをはねられた!》
Unknown[ウィザードリィ?ウィザードリィ?御二人とも、懐かしいの持ってきましたな…]
甘楽{ああんもう、脱線しないで下さい!}
セットン《あー。すみません》
田中太郎【すみません甘楽さん】
Unknown[すみません]
甘楽{いいですか!今、池袋は妖刀のうわさで持ちきりなんです!夜な夜な現れては路地裏で凶刀を振るう、謎の殺人鬼!
まだ死人は出ていませんけど、日本刀を使って人の身体をばっさばっさと袈裟斬りに!}
田中太郎【いや、袈裟斬りだと普通死ぬんじゃ……】
甘楽{手加減した浅さで斬るらしいですよ!中には腕とか刺された人もいるらしいです!}
Unknown[殺さないように手加減できるなんて凄いですね]
田中太郎【絶対そこじゃないと思いますよ……】
甘楽{Unknownさんってもしかしなくとも天然ですかぁ?}
Unknown[はっ?初めて言われました]
セットン《それはそうと、それってただの通り魔じゃないですか》
甘楽{もう!そんなんじゃないんですって!日本刀ですよ日本刀!それがもう、人離れした動きで、もう逃げる間も無くズバッて斬られちゃうらしいですよ―もう!きっともう人間の仕業じゃないですよ!}
セットン《だからって、なんで妖刀?》
甘楽{えへへ、ここだけの話ですけど……被害者の一人が見たらしいんですよ。自分を斬った奴の顔を見たら―、なんかもう、ヤバかったって}
田中太郎【ヤバかったって?】
甘楽{もう、なんか目が赤く光っちゃって、意識が何かにのっとられてるみたいで、もー吸血鬼に噛まれて支配された人間みたいだって!}
セットン《じゃあ、吸血鬼なんじゃないですかw》
甘楽{やっだなあセットンさん!吸血鬼なんてこの世にいるはず無いじゃないですか!}
セットン《………》
甘楽{うそですよ、う・そ☆セットンさん、怒らないで}
セットン《いや、怒っていませんよ(怒)》
田中太郎【怒ってる怒ってるw】
Unknown[でも、首無しライダーが実在するんですから、妖刀もいるかもしれませんね]
セットン《首無しライダーですか。こないだもテレビで特集やっていましたね》
田中太郎【そうそう、空を飛ぶ緑色の女の人とか一緒に特集されていましたね。オカルト番組で】
Unknown[あ、それ私も見ました]
甘楽{セットンさん、首無しライダーのテレビとかやると必ずチェックしてますよね!}
田中太郎【ファンなんですか?】
セットン《そういうわけでもないんですけど。ええと、一緒に住んでる相方の男が大ファンで》
田中太郎【相方?え、もしかしてセットンさん、結婚なされているんですか?】
セットン《いや、結婚はまだ……》
甘楽{じゃあ、同棲ですか!?キャー!}
セットン《きゃーって甘楽さんも彼氏さんと同棲してるって前太郎さんから聞きましたよw》
甘楽{うふふ、素敵な彼氏です♡}
Unknown[お二人共幸せそうで何よりです]
セットン《って、違う違う。相方ってだけで、どうして恋人になるんです……っていうか、もしかして私の性別、わかってます?》
田中太郎【え、女性……ですよね?】
Unknown[女性だと思っていました]
甘楽{話し方で丸判りですよー。女性らしいけど、ネカマほど露骨じゃないですしー}
田中太郎【もしかして、いままで気付かれてないと思ったんですか?】
セットン《さてと。明日は早いんでそろそろ寝ますー 。じゃ、おやすー》
――セットンさんが退室しました――
田中太郎【あ、逃げた】
甘楽{わかりやすいですねー}
Unknown[おやすみ]
――内緒モード――
田中太郎【……あなたがネカマって言うと、ただのギャグですよ。臨也さん】
甘楽{いやあぁぁぁ!太郎さんが内緒モードでセクハラしてるぅ!}
Unknown[あ……俺邪魔ですかね?じゃあ今日はこれで失礼します。おやすみなさい]
―――Unknownさんが退室しました―――
甘楽{待ってくださいよぅUnknownさんっ!太郎さんとふたりきりにしないでくださいっ!それじゃあ私も落ちますね!おやすー!}
―――甘楽さんが退室しました―――
田中太郎【はい、お休みなさいー……一応言っておきますけど、誤解ですから!何もセクハラなんかしてませんから!】
――田中太郎さんが退室されました――
――現在、チャットルームには誰もいません――
――罪歌さんが入室されました――
罪歌〈人 愛 違 弱 望 愛 望 望〉
――罪歌さんが退室されました――
スマホの画面を閉じて、ほっと小さく息吐く。
ダラーズの集会から半年ほど経っただろうか。
オレはチャットのメンバーの一人として完全に馴染む事が出来ていた。
実際にアニメで見ていた会話が目前で繰り広げられるのは微笑ましい事この上ない。
(――っていうか、オレが彼氏の設定まだ続いていた!!)
思わず心のなかでツッコミを入れてしまう。
……咄嗟に性別を偽り、オレが女を名乗ってしまった事により何故か成立してしまったことが解せない。
(……どうせUnknown=オレってバレていないし、もうどうにでもいいや)
オレは突っ込まない。意地でも突っ込まないぞ。
臨也さんならネットのあれこれからオレの携帯を割り出せるかもしれないと思い、オレのスマホはWi-Fiを使わず、常にモバイルデータをオンにしている。
これが時間稼ぎにしかならないという事など私1番が分かっているけれど。
あの臨也さんの事だ。招待していない人がやってきたことに興味を持つに違いない。
ま、バレたらその時明かそうか…。
(とりあえず、臨也さんが罪歌について情報を流し始めた、ということは、これから罪歌編が始まるんだ)
ぱちん、と頬を叩いて気合を入れ直す。
自室から下りてリビングに向かうと、あいも変わらず臨也さんはパソコンとにらめっこ状態だった。
仕事の邪魔にならぬようグラスにお茶を注いでソファーに腰掛ける。
なんとなくテレビをつけると、そこではニュース番組が放映されていた。
佐藤リポーター「――被害者はこちらの住宅街で切りつけられたと見られています。石壁には被害者の物と思われる血痕が残されており――」
リポーターが指をさす部分には、切られた際に飛び散ったと思われる乾いた血がこびりついていた。
佐藤リポーター「――既に被害者の数は15にも上っており、町の人々からは不安の色が伺えます
――犯人は現在逃走中です。被害者の証言はまちまちで、警察の捜査は難航しています。警察は複数の愉快犯の犯行の線も視野に捜査を進めています」
アナウンサー「佐藤さん、ありがとうございました」
アナウンサーの声により、中継は途絶える。
カメラを向けられたコメンテーターがこういった。
コメンテーター「被害者の証言がバラバラなのが謎ですね」
アナウンサー「一貫している証言は“目が赤く光っていた”という事のみのようです」
コメンテーター「目が赤く光っているだなんて……怖いですね」
アナウンサー「巷では“首なしライダー”に並ぶ新たな都市伝説、“切り裂き魔”と呼ばれているようです」
後ろから伸びをして腰を上げる音が聞こえる。
どうやら仕事が終わったようだ。
オレはキッチンで紅茶を淹れて、先程私が座っていたソファーに腰掛ける臨也さんの前に置いた。
『お仕事お疲れさんッス』
臨也「ありがとう。切り裂き魔の話かい?」
『はい。最近、池袋も物騒ッスね』
臨也「くくく、池袋はいつだって物騒な街だよ?カラーギャングとかの治安の悪さもそうだけど――なんてったってゴミ箱や自販機が飛び交う街だから」
『いやそれは臨也さんが池袋に行かなければ良い話……』
面白おかしそうに笑う臨也さんに、ジト目で返す。
臨也「なんで俺がシズちゃんに遠慮しなきゃいけないのさ」
『いやまぁそれはそうッスけど……』
目線をテレビに戻すと、いつの間にか切り裂き魔のニュースは終わっていた。
『臨也さんも気をつけてくださいね』
オレの言葉に臨也さんは目を丸めた。――かと思うと、お腹を抱えて笑いだした。
「くっふふ、あっははは!!!!」
『えッ、オレなんか変な事言いました!?』
臨也「いやいや、まさか俺を心配してくれるとはね。驚いたよ。伊達にシズちゃんとやり合ってるわけじゃないからねぇ。こんな刀程度には負けないよ」
『あぁ……確かに。二人の喧嘩のほうが恐ろしいッスね』
自販機が宙を舞う様子を思い出して遠い目をする。
臨也「それより、危ないのは深夜のほうだよ」
『え?オレ?』
臨也「そう。君は来良に通っているし、池袋に行かないなんてことは出来ないだろう?深夜は俺と違ってか弱い弟なんだから、切り裂き魔に遭遇したらおしまいだよ」
ぽんぽん、と頭に乗せられた手。
ほとんどされたことのない弟扱いに、気恥ずかしくなって俯いた。
『あ、ありがとうございます……』
臨也「ん。これからしばらくはすぐに家に帰ってくること。いいね?」
『はい』
臨也「よし。じゃ、そろそろご飯でも食べようか」
『あれ、冷蔵庫何か入ってます?』
嫌な予感がして扉を開けると――
『――見事にすっからかんですね』
最近忙しくて買い物に行けなかったので、「余り物で……」と料理していたら、何も無くなってしまった。
『買い出し言ってきます』
臨也「了解。池袋の方にはいかないようにね?」
『わかってますよー』
とんとん、と爪先を地面につけて靴を履く。
扉を開くと、秋になりかけた生ぬるい夜風が頬を撫でた。
臨也Side
がちゃり、と扉が閉まったことを確認する。
『はてさて』
長時間のデスク作業で凝り固まった肩をほぐす。
『それにしても人使いが荒いなぁ四木さんは』
数ヶ月ほど前、お得意様の四木さんから依頼された件が思ったよりも長期的な案件になってしまった。
おかげで妖刀罪歌を上手く利用するのに時間がかかってしまった。
『――まぁ、そっちはぎりぎり予定通りなわけだが』
先程チャットルームで罪歌の話を拡散させたことを思い出す。
『貴方を特定するのに、少し時間が掛かっちゃったなぁ。Unknownさん。
――いーや、深夜くん』
数ヶ月ほど前、チャットルームに突然現れた男、Unknown。
俺、甘楽が管理をするあのチャットルームは、誰でもROMれると謳ってはいるものの、実際は俺が招待した人のみが入れる招待制チャットルームになっている。
田中太郎はダラーズの創始者、竜ヶ峰帝人。
セットンは都市伝説の首なしライダー、セルティ・ストゥルルソン。
まさに“招かれざる客”であるUnknownの正体は一体何者なのか。
ずっと気になってはいたものの、仕事をほっぽりだして調べることも出来ず、特段害もないだろうと後回しにしていた。
そうしてやっと先日、重い仕事が片付き、俺は即座にUnknownの正体を調べにかかった。
結果はそう――
――何も出てこなかった。
いいや、出てきた情報ならあった。
“あなたが調べている人の使っている機種はこの世には存在しない”と。
初めの俺ならきっと焦った。
何故情報屋の俺の腕をもってしても探し出せないんだろう、って。
でも、俺は一回経験してる。
この世には存在しない、だなんて聞いて、思い浮かぶのなんて一人しか居ない。
萩原深夜。
(はぁ、Unknownがまさか君だったとは)
正直彼が現世の持ち物を持っているのは誤算だった。
彼をあの場で拾った時、着の身着のままで放り出されたようだったから何も持っていないのかと思っていたが……。
(それにしても、彼がどうしてあのチャットルームに来れたのかは、よくわからないな)
こればっかりは彼のスマホを調べてみないとどうにもならない。
『まぁ、もう少しだけは泳がせてあげようかな』
彼の存在は、これから起こる三つ巴の良いスパイスになるだろう。
ディスプレイに映る“Unknownが退出しました”の文字を見て、静かにほくそ笑んだ。
臨也Side終
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