編入
『わあああああっっっ!?』
臨也「ちょ、何深夜…朝からうるさいよ」
朝七時半、臨也さんの家にオレの絶叫が響く。
『ちょっと臨也さん!!なんで起こしてくれなかったんッスか?』
そう、今日は昨日入学式だった来良へ編入する日。
臨也「俺は深夜のママじゃないんだけど」
呆れたようにやれやれとジェスチャーをする臨也さんを見てイラッとする。
『ちょ、誰かさんのせいで喋ってる時間無いんで黙ってください。あと、今日朝食作れないので適当に食べてくれッス』
臨也「理不尽すぎるでしょ」
嘆く臨也さんの言葉を遮って臨也さんの部屋で慌てて制服に着替える。
置いてあるプチドレッサーをお借りして身だしなみをチェックする。
まぁ、少し髪がハネてるけどこれくらい許容範囲だろう。
部屋から飛び出して、猛ダッシュで玄関へ向かう。
『それじゃあ臨也さん、行ってくる!』
臨也「はいはい、いってらっしゃい」
苦笑しながらそう答えてくれた臨也さんに笑顔で応えた後、私は新宿駅へと走るのだった。
足は静雄がきちんと手当をしてくれたおかげか、全くと言っていいほど傷まない。
(流石に編入一日目から遅刻とか笑えないねぇからな…!?)
急いで電車に乗って池袋駅につくと、見慣れた背中を見つけた。
声をかけてみる。
『正臣?』
正臣「んお!?深夜じゃん!どーした…って、そうか、深夜も今日から来良か!」
『そう!』
正臣「同じクラスになれたら良いな」
『だなー』
そんな会話をしながら正臣と学校へ向かう。
未だに来良学園の場所がわからず、地図アプリを使っていたので彼と出会えてよかった。
『そうだ深夜!今日終わった後、俺とデートしないか?☆』
ウィンクをしながらそんなお誘いをしてくる正臣。
『さてはオレに惚れちゃった?なんてな、池袋巡りツアーなら是非!』
正臣「おぅおぅ良いねぇ!俺、そういうノリ良いの嫌いじゃない。むしろ大好きッ!さぁ、俺と深夜の二人でラブラブランデブーなディトを……」
『へいへい。学校遅れるから馬鹿な事やってると置いてくぞー』
正臣「あぁん、待てよ深夜〜」
後から追ってくる正臣を見てクスクスと笑う。
『オレ、ここにこれて良かった。正臣も帝人くんも杏里ちゃんも居て』
「……ははっ、何だよ突然、照れんじゃん?」
『あはは、恥ずかしいから忘れて』
オレも恥ずかしくなって少し頬を染めると、正臣もほんのり赤くなった。
どうしてこの世界に来たのかはわからないけれど、オレは今、とても幸せだ。
先生「みんな、新しい編入生の折原深夜くんだ。お家の都合で昨日の入学式に手続きが間に合わず、今日から編入という形になった。仲良くしてあげなさい」
『折原深夜です、よろしくおねがいします!』
頭を下げると、パラパラと拍手が聞こえた。
先生「それじゃあ席はどうしようか…あぁ、そうだった。竜ヶ峰の後ろが空いているな」
(えッ、それ矢霧くんの席じゃ…)
思わず顔を引き攣らせるが、彼は来ないので問題ないのだろうか。
まぁ、帝人くんと席が近いのはありがたい。
『昨日振り、帝人くん』
帝人「折原くん…!よろしくね」
『こちらこそよろしくね』
そう、オレが編入したクラスは1-A。
残念ながら、正臣とはクラスが離れてしまったけれど、帝人くんと杏里ちゃんと同じクラスになれたので良しとしよう。
本当は、[[rb:神近莉緒 > マゼンダ]]さんともお会いしたかったけど…。
もうアニメの出来事は終わっているだろうし…。
(……まぁ、いいか)
その日は特に気にせず、その後の授業を受けた。
◯
◯
◯
『ふぁーぁ、ようやく終わったぁ』
眠い目を擦ってぐっと伸びをする。
帝人「折原くんってもしかして頭良い?」
前の席の帝人くんが話しかけてくる。
『んえ、どうだろ。人並み?』
オレの言葉に、帝人くんが苦笑する。
もしかしたら、帝人くんからはオレが頭がいいように見えるのかもしれないが、それは当たり前だ。
私は現世で高校2年生、1年の一番最初の授業なんて余裕で解けなきゃ可怪しいくらいだ。
『まぁ、寝てたときに発展問題解かされたときはちょっと焦ったけど』
帝人「あれは凄かったね…あ、そうだ、折原くん。少し聞きたいことがあるんだけど…」
帝人くんは、何かを思い出したような顔をした後、目線を泳がす。
『何?オレが答えられることなら』
どこかの問題が分からなかったのかな?と首をひねらせると、意外な人物の名前が出てきた。
帝人「折原くんは、平和島静雄さんと仲がいいの?」
『静雄…?』
突然出てきた静雄の名前に混乱して、思わず彼の名を零すと、帝人くんは驚いたように大きく目を見開いた。
帝人「…やっぱり、噂は本当だったんだ…」
『噂?噂って何?』
気になる言葉を聞いたので、思わず問い詰める。
噂って、オレと静雄の?一体どんな?
帝人「あぁ…実は…」
そのとき、
正臣「深夜!あぁ、麗しい俺の王、君の騎士、紀田正臣がお迎えに上がりました…ッ!」
勢いよく扉が開いたかと思えば、正臣が大声でそんな事を言ってきた。
『ちょっと正臣、うるさいんですけどー?』
正臣「やぁん、深夜ったらツンデレだなぁ、んもぅ」
「正臣、折原くん困らせないでよね」
『というか今、帝人くんと話してたのに』
正臣「お前ら…ッ、いつの間にデキちゃってたのか!?この紀田正臣さまを置いて…!?」
『そろそろ殴っていいか?』
帝人「いいよ、僕が許可する」
正臣「帝人ッ!?」
二人「『あははっ』」
正臣「んもー、すっかり仲良しじゃねーか」
『そういえば正臣、どうしたの?』
オレが疑問に思って首を傾げると、正臣は文字通り膝から崩れ落ちた。
「どうしたもこうしたもねーだろ?今日は俺とデートだって言ったじゃねーか」
『あー、そういえば』
オレ達の会話を聞いていた帝人くんが過剰に反応する。
帝人「でっででででっっででで、デートぉっっっ!?!?」
正臣「何だよ帝人、羨ましいのか?」
『帝人くん、真に受けるな。ただ放課後遊びに行こうってだけだから』
オレの弁明に、帝人くんが安堵する。
帝人「び、びっくりしたぁ…そうだよね、流石の正臣でも平和島静雄さんを敵には回せないよね」
ボソッとそう呟いた帝人くんに、オレと正臣は首を捻らせる。
どうしてそこで静雄の名前…?
正臣「ま、帝人が可笑しいのはいつものことだよな。よし、というわけでマイキング?共に一夜の逃避行と行こうじゃないか……」
『あ、よかったら帝人くんも一緒に行かない?』
正臣「深夜ッ!?!?」
帝人「えっ、僕?良いの?」
『うん、よければ杏里さんも一緒でも…』
彼女の席の方に目線をやると、こちらを振り返った杏里ちゃんと目が合う。
オレがひらひらと手をふると、杏里ちゃんは少し頬を染めてから手を振り返してくれた。
(はぅん、杏里ちゃん可愛い…)
正臣「俺と深夜と帝人と杏里……。ふむ、良いダブルデートじゃあないかっ!あ、帝人抜きで俺が両手に花、的な?」
オレが杏里ちゃんの可愛さに顔を綻ばせている間、正臣が意味不明な言葉を並べる。
帝人「でも、4人で回るのは楽しそうだね!よかったら一緒に池袋を回りたいな」
正臣「よぉし、んじゃあ決まりだな!」
そう言うやいなや、正臣は杏里の座席に飛んでいき、遊びに行こうと誘いに行った。
その時、北駒先生がクラス委員を呼ぶ。
正臣も、隣のクラスの友達が風紀委員関連で呼び出していた。
帝人「ごめんね、折原くん!僕達ちょっと委員会で…」
正臣「わりぃ深夜!俺もだ…」
『あぁ、全然いいよ〜。待ってる』
杏里「すみません…!すぐ終わらせてきますね」
『……さてと』
ポケットからスマホを取り出す。
三人が用事を片付けている間に、オレはオレで確認したいことがあった。
現実世界から唯一持ってこれた自分のスマホ。
こちらにやって来てからずっと調べてみたかったけれど、近くにずっと臨也さんがいたので確認できなかったのだ。
(臨也さんの家で使ったら、勝手に電波調べられて色々バレてしまいそうだし)
利用価値があるとなれば彼に利用されるのは目に見えている。
彼に与える情報は少なければ少ないほど良い。
まず一つ、電話帳とLINEを確認する。
電話帳には、変わらず家族や友達の電話番号が乗っていた。
試しに父親に電話をしてみる。
【――お掛けになった電話番号は電源が入っていないか電波の届かないところにあるため――】
そんな機械音声のアナウンスが聞こえてきて、ピッと切る。
まぁ、期待はしていなかったけれど。
家族LINEにメッセージを送ってみても、既読はつかない。
はぁ、と小さくため息を吐いて、今度はツイッターを開く。
【地震】と調べてみても、都心で震度6の大地震が起きたなんて情報はどこにも乗っていなかった。
【デュラララ‼】と調べてみても、ヒット数は無いに等しい。
――つまり、デュラララ‼という作品自体が存在していないのだ。
わかってはいたことだけれど、なんだか少し寂しくなってしまう。
(これは、完全に現世と繋がり切られてるな)
諦めムードになりながら、最後にデュラララチャットのURLを入力する。
どうせ出てこないだろう、そんな諦観を抱きながらスマホの画面を見つめていると――。
『……マジかよ』
画面には、一昨日オレが臨也さんから見せてもらった甘楽ちゃんと田中太郎くんのチャット履歴が映されていた。
これは使える。
そう思った。
ハンドルネームをササッと入力して、チャットに参加してみることにした。
ハンドルネームは“Unknown”。
意味は不明、未知など。
とっさに思いついたのがこのハンドルネームだった。
なんだかオレにぴったりだと思う。
誰もチャットにいないので、とりあえず挨拶だけ打っておく。
[はじめまして。Unknownです。よろしくおねがいします]
帝人「折原くーん!ごめんね!こっち今終わったよ」
杏里「遅くなってしまい申し訳ございません…」
正臣「深夜ーっ!俺の方も終わったぞー!」
丁度、3人の用事が終わったようなので、席を立つ。
『りょーかいっ!』
……さて、楽しい池袋巡りツアーの始まりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます