折原臨也との最悪で最高な出会い
???「……み、……ねぇ、きみ」
『んん……』
???「おーい、無視?」
『……んっ……あれ?』
???「おはよう」
頭を抑えながら体を起こす。
頭は――痛くない。
意識を失う直前のことを思い出す。
確か、電車に乗っている時に大地震が来て電車が脱線して……。
そうだ。頭を打ったか…。
でもじゃあ、ここは一体?
どうなっているんだ、私は死んでしまったのか。
そう思い、周りを見て驚く。
『どこここ……』
オレはコンクリートに寝ていたみたいだ。
あたりを見ても、天国というよりはただの都会のようだった。
色々な人々がオレを怪訝そうに見ながら通り過ぎていく。
話し声を聞いても、話しているのは日本語だった。
周りは、まるで新宿のように人がごった返している。
(オレ、助かったのか?)
一瞬そう都合の良い解釈をしようとして、首を振る。
ここには、地震が起きた痕跡がない。
じゃあここはやっぱり夢か天国で……。
???「ちょっと君ぃ?俺を無視するなんて度胸あるねぇ」
『……は?』
聞き慣れた声がする。
ここ最近、一番好きなキャラの声。
いや、でもな……
ギコギコ、と、まるでロボットのように首を動かす。
絶対にいるはずないのに。
何故…ココに。
「おはよう。こんなところにいたら危ないよ?」
仮面の笑みを貼り付けた男が、私に話しかけた。
(折原、臨也……?)
ハッ、とする。
いやいやまさか。
いくら眉目秀麗で声が神谷○史さんで黒パーカーで痩せ型だからって……。
――いや、それってもう折原臨也じゃん?
一体どういうこと?
折原臨也は二次元のキャラクターだろ?
どうしてここに存在している?
そもそも夢?現実?
思わず頬をぎゅうっと抓っても、ちゃんと痛かった。
なんなんだこれ、どうなっている?
(……トリップとか、馬鹿げた事言わねぇよな?)
ありえない状況に陥って混乱するオレをよそに、目前の男は話しかけてくる。
「君、大丈夫かい?迷子?それとも……オフ会参加希望?なんてね」
『え……っと?』
そういって妖艶に笑うソイツに、ぞわぁと毛が逆立った。
本能が、関わってはいけないと告げる。
しかもオフ会って、小説の心中オフ会……!?
恐怖で視線が泳ぐ。
そんなオレを察してか、折原臨也はこういった。
臨也「――あぁ、怖がらせてごめんね。名前くらいは言ったほうが、安心してもらえるかな?」
いや、名前知ってるっッーの!。
……なぁんて事は言えないので、次の言葉を待つ。
彼はミリ単位で変わらない笑みを浮かべながらこう言った。
臨也(奈倉)「はじめまして。奈倉です。すーっといなくなりたい、奈倉です」
(――いや偽名ッッッッッッ!!!!!!!!)
思わず顔が引き攣ってしまったのは許してほしい。
すーっといなくなりたい奈倉です、が生で聞けたのは凄い嬉しいけど。
まぁ、初対面の人に本名言ったりしないか。
職業柄も相まって。
『ボ、ボはノアと言います』
向こうが偽名ならこちらだって偽名を名乗っても恨みっこなしだろう。
折原臨也に嘘なんてついたらすぐバレるかな、なんて思ったけれど、案外気にしていないようだった。
臨也「ノアちゃんか、変な名前だね」
『そう、ですかね それと僕は男です…』
初対面の男に対して失礼な人だ。
偽名だから特に何も感じないけれど。
臨也「とりあえず立ちなよ って…男!?」
折原臨也が手を差し伸べてきたので、手を乗せると、私を持ち上げてくれた。
『ありがとうございます。あっ、じゃあ、僕はこれで』
これ以上折原臨也と関わるのは得策では無い。
そう言って去ろうとしても、繋いだ手を離してもらえなかった。
臨也「それで、君はどうしてこんなところに?」
赤い瞳の奥がギラリと光る。
まるで新しいおもちゃは逃がさない”とでも言われているような気分だった。
折原臨也――いや、奈倉さんと呼ばないと彼と話していてもボロが出そうなので奈倉さんと呼ぶ事にする――に連れられてやってきたのは近くのカフェ。
臨也「とりあえずなんか頼みなよ」
そう言われてぎくりとする。
待って、オレ、無一文なんだ。
さぁっと血の気が失せる。
確かにあそこにはバックは無かった。
こっちの世界に来た時は、本当に着の身着のまま状態だった。
唯一の持ち物といえば、ポケットの中に入っていたスマホとモバイルバッテリーとイヤホンのみ。
『いえ…本当に、水だけいいので……』
臨也「俺の奢りでいいよ?無視して連れてきちゃったし」
その言葉に少しだけ呆れる
無視して連れてきたって自覚してるけど……。
でも、どんな形であれ奈倉さんに貸しを作りたくない。
『いえ、本当に大丈夫です。お気遣いありがとうございます』
その時、ぐぅ、と音がした。
反射的に自分のお腹を押さえる。
臨也「……」
『……ぅあ、えっと、あの』
「お昼どきだもんねぇ。お腹すいたね?」
『〜〜〜〜〜っっっ!!!』
奈倉さんの言葉に顔を赤くする。
そういえば、家を出たのは10時頃だった。
新宿についてから遅めのお昼にしようと思っていたので、何も食べていない。
まさかそこまで計算してカフェに連れてきたのか。
臨也「ここのパンケーキ美味しいらしいよ」
『でも…あの』
臨也「俺の奢りでいいって言ってるのに。そんなに俺に貸しを作りたくない?」
ニコリと笑われながら図星を指されて、体が固まる。
臨也「ノアくん、分かりやすいよ。そんなに嫌なら、自腹で食べたら?」
『嫌味ですか?』
引き攣った笑顔でそう返すと、奈倉さんは「まさかまさかぁ!」と笑った。
臨也「こういう時は人の善意に甘えておくべきだと思うけどなぁ?」
善意と言う言葉を言った瞬間にゴミを見るような目で見てしまった事は許してほしい。
でも、お腹すいたしな……。
家もお金もない今、少しでも食事は取っておいたほうが良いかもしれない。
『……じゃあ、お願いします』
目の前の男は奢らされるというのに、とても嬉しそうに笑った。
奈倉さんに進められて、オススメだというパンケーキをいただく。
奈倉さんはコーヒーを頼んでいた。
『美味しそう…』
届いたパンケーキに唾液腺が刺激される。
もう一度お腹がならないか心配だった。
臨也「それで、結局君はどうしてあんなところに?」
奈倉さんに鋭い視線を向けられて、背筋が寒くなる。
トリップしたなんて言ったって信じてもらえないだろう。
何より、オレがこれから起こる展開を知っているだなんてバレたら始末されかねない。
『……わからないッス』
臨也「……わからない?」
オレの言葉に怪訝そうに眉をひそめる。
『突然彼処に寝ていて、どうしていたかもわからなくて。その、バレてると思うんですけど、お金も持ってなくて……』
口に出すと、凄く危ない状況に陥っている。
(このままじゃ野垂れ死ぬ……っ)
「ハッハッハ。未成年なのに泥酔してたって?昼間っから?――面白い冗談だね」
(全然信じてもらえてない〜ッ!)
『まぁ、そうですよね……冗談みたいだよな。あはは……』
笑いながら、気分は落ち込むばかりだ。
パンケーキを口に運ぶと、甘味が口に広がった。
『……美味しい』
なんか泣きそうになってくる。
いつになったら帰れるんだオレは。
奈倉さんの前で泣くなんて絶対しないけど。
『あの、奈倉さんは新宿詳しいんですか?』
「まぁ、ここらへんはね」
『えっと、厚かましくて申し訳ないんですけど、安いネカフェとかって知りませんか?』
「もちろんだけど、何故?」
『何故って、帰る場所もないですしバイトも探さなきゃですし。とりあえず必要最低限の収入とかは手に入れないと死んでしまいます』
眉を下げながらパンケーキを口に運ぶ。
正直、これからのことを考えると頭が痛くなる。
『最悪ママ活とかですかねー』
ぶっちゃけると、オレは自分の顔の良さをわかっているつもりである。
多少怖いけど食費浮いたりするなら悪く無い。
危ない方に手を出さなきゃ良いだけだ。
ちらっと目の前に座る男に目をやると、不気味に口端をあげた。
臨也「君が記憶喪失っていう点はあんまり信じられないけど……俺、君に興味湧いちゃった」
『え゛っ』
臨也「俺が助けてあげようか。住居や食費、その他諸々保証してあげるよ」
『初対面の男に?正気か?』
臨也「もちろん、タダじゃないよ?代わりに俺を楽しませてくれたら、だけど」
目の前で笑う男は救世主のようなのに、悪魔のような恐怖を感じたのは気の所為だろうか。
うーん、と、悩む。
正直、これから起こることも、彼の性格も知っているので、居候というのはなんだか気が引ける。
でも、彼の誘いを断ってオレに残る物はなんだ?
それは、小さな安心と、大きな将来への不安。
どう考えても彼の手を取るのが合理的だ。
『……すみません。お願いしたい、です』
臨也「こーしょーせーりつ」
ニヤッと笑う彼を見て、すでに後悔を感じた気がした。
それでも、少しだけ安心を感じた。
これで路頭に迷う必要はなくなったのだから、オレはこれから彼に誠心誠意尽くしていかなければならない。
それくらいのことをしてもらったのだから。
……よく考えると、とても大きな借りをしてしまった気がする。
臨也「それにしても、君も馬鹿だよねぇ」
『……は?』
不穏な言葉に耳を疑う。
パンケーキを刺したフォークを動かす手が止まった。
臨也「初対面の男に居候とか、危ないと思わないの?」
そう言われてハッとする。
現世で家出少年が女の家に止まってあんなことやこんなことがされてしまったというニュースを聞いたことを思い出す。
『……奈倉さんを楽しませるって、そういう意味ですか』
少し震えた声でそう聞くと、奈倉さんは「ははっ、そんなわけないじゃん」と笑い飛ばした。
臨也「違うけど。っていうか、俺、君みたいな子タイプじゃないし」
その言葉に安心する。
……タイプじゃないと言われて、少しカチンとはしたけど。
アニメで見た折原臨也はそういう欲求とはかけ離れていたからその点においてだけは安心できる。
臨也「君はもう少し人に危機感を持ったほうが良いかもねぇ」
顎に手を当てて考えるように笑う奈倉さんに、オレは乾いた笑みを漏らした。
アンタへの危機感なら、誰よりも抱いているつもりだ。
「そうだ。じゃあ君に居場所を提供する代わりに、今から少し付き合ってくれないか」
『……?』
オレはパンケーキを口に運びながら、首を傾げる。
こんな悪魔にでも助けていただいたのだから、オレに選択肢なんか無いに等しい。
静かに頷くと、奈倉さんは手元のコーヒーを飲みながら、「これは面白くなりそうだ」と呟いた。
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