第6話 まあまあだと?


 休み時間の度に女生徒に囲まれて、教室の外に連れ出されては戻ってくる。

 男たちは微笑ましくそれを眺めていた。


「なあ、ユッキーってけっこう可愛くね?」

「まあまあやな。性格もわりかし良さげやし」

「せやな」


 そんな会話が耳に入ってくる。


 けっこう? まあまあ? わりかし?


 おらんら、なんほなんとるんか?(お前ら何言ってるんだ?)

 そん目はセッカアか?(その目は節穴か?)

 ヒトナリ疑うぞ?(人間性疑うぞ?)


 思わずバリバリの富山弁で突っ込んでしまう。

 上品で協調性に溢れる俺は、口には出さないけれども。(地味で陰キャで引っ込み思案とも言うけれども)


 え、だけど、ちょいま、マジで……?


 近くにたむろってる二次丸に、ひそひそと聞いてみる。


 二次丸=田村次郎丸は、図書委員でオタク仲間で俺のサブカル師匠でもある。

 自己紹介で「断っておくが、俺は現実の女に興味はない! 惚れてもムダと思い知っておけ!」と言い放った生粋の二次元派勇者で、すでにこの学校の生ける伝説となりつつある。


「なあ、あん子すんげえ美少女やんな。アニメとかラノベに出てくるみたいなさ」

「まあサブヒロイン級くらいではあるかも知れんなあ。ライラ姫には到底適わんがな」


 ガッハッハと笑う。どうやら最近の嫁はライラ姫というらしい。


 だがしかし……思ったほど評価が高くない。

 わりと価値観が合う二次丸にしても、その程度なのか?

 なぜ? なんで? どないわけ?


 四時間目が始まると、彼女の席がひとつ近づいていた。

 窓際の二番目から三番目へ。

 どういう交渉があったのか分からないが、後ろの席のハッチ=長谷川知佳と入れ替わったようだ。

 俺の席の左斜め二つ前。

 その姿が一段とよく見える。

 GJハッチ!


 そしてまた四時間目中彼女の後ろ姿を眺めていた。

 

 黒板に目をやる横顔は、少し緊張が和らいできたように見える。

 真新しい制服はまだ折り目正しくピシッとしていて、それが彼女によく似合っている。

 膝丈のスカートはちょっと長めで野暮ったく見えるけれど、濃いめの黒ストッキングとのバランスが絶妙だ。


 そう、彼女はストッキングを履いていた。

 はあ、これが東京の女子中学生なのか、と溜め息が漏れる。

 むちっと力強そうな紺とか白のハイソックス女子とは、やっぱりぜんぜん違う。

 スラリとした曲線美。そう曲線美というものを初めて知った。

 この日から俺は足フェチ&黒ストフェチになってしまったのだった。


 彼女の手が、首が、髪が、足が動くたび、揺れるたび、鼓動が跳ね息が詰まりそうになる。

 それは、なんというか、とても幸せな時間だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る