第5話 しんしんは却下
「そや、いいんちょ、ユッキーにあだ名付きの席表作って〜な。そんならみんなのことすぐに覚えられるっしょ」
「うん、ええよ〜」
佐々村さんの前の席のクラス委員、平野
メガネに三つ編みおさげの理知的な女の子だ。
まあどこへ行ってもクラス委員に選ばれるタイプで、本人もそれが当然と思っているふしがある。
レミンの「平野さんがいいと思いま〜す」の一言で決まった、ほぼ出来レースのような委員決めだった。
体のいい雑用係ではあるのだけれど、それを苦にしない、と言うか喜んで引き受ける、と言うか生き甲斐のようなところがあるので、みんな「悪いな〜」と思いつつ心の中で拍手をしながら手を合わせている。
「なん、ユッキーで決まりなんか?」
ビッシーがレミンに言う。
「他になんかええのあるかね?」
「さっきパッツが言ってたん、なんじゃっけ?」
「え、しんしん、やけど……」
遠巻きの端っこから俺が答えると、誰かが言った。
「なんかそんな名前のパンダおらんかったっけ?」
「漬物にもしんしんってあった気がするなあ」
「あかんや〜ん」
どっと笑いが起こる。
「なあ、やっぱユッキーの方がかわいいじゃろ? ユッキーはどうね?」
「え、うん、いい、かな……」
すでにユッキー呼びで尋ねられて、押し切られたように彼女が頷く。
そんなタイミングで一時間目の予鈴がなった。
「じゃ次の休み時間にトイレの場所とか教えちゃるね〜」
「またあとでな〜」
各自自分の席に戻って教科書を広げ始めた。
夏休み明け&転校生というイベントのせいで、授業が始まってもどこかソワソワした雰囲気は消えない。
たまに女子が佐々村さんと目を合わせて小さく鉛筆を振り合ったりしてる。
俺はそんな彼女の姿をずっと眺めていた。
どんな仕草も、どんな横顔も、どんな姿勢も、どんな足の揃え方も、俺をうっとりさせた。
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