第7話 発熱
あっと言う間に五十分が過ぎ、給食の時間になった。
ガタガタと机を合わせて島を作る。
「今日はでっかくしよーや」
というビッシーの声で、窓際二列を向かい合わせた長い島になった。
俺と彼女は斜めで向かい合う。
なんたるラッキー!
「いただきます」
食べ始めると同時にレミンがみんなの紹介を始める。
いつの間にかちゃっかりこの列のお誕生日席に座っていた。
「こっちから、いいんちょ、ハッチ、マハハ、りこちん、あみー。男子が、エンタ、よーすく、へろり、りゅうかん、パッツ、そんでビッシーね」
彼女はいいんちょから書いてもらった席表と顔を見比べながら、一人ずつに頭を下げている。
「名前の由来なんかは、またそんうちね」
「わっち、そんなんもう分からんようになっちょうよ」
「しゃべってばっかりじゃあ飯くえんじゃろが」
「そやね、食お食お」
と言いながら女子らのおしゃべりは止むことがない。
俺は紹介された時にちらっと目を合わせただけで、ずっと下を向いて給食をかきこんでいた。
野菜多め炭水化物少なめのヘルシー食は、育ち盛りに足りるはずもなく、すぐに食い終わってしまう。
あとはパック牛乳をチビチビ飲んでいるしかない。
手持ちぶさたの俺にビッシーが握り飯を半分に割って差し出す。
もちろん具の少ない方だが。
飯を食うのも仕事と言って、いつもでかい握り飯を二個持ってきている。
甲子園を目指すビッシーは、もう県の強豪校での野球生活の準備に入っていた。
ちなみに受験の心配はまったくしていない。
「お、さんきゅ」
ぎゅうぎゅうに飯が詰まった半分の握り飯をありがたくいただく。
「なあ、なんであっち向かんのや?」
「へ?」
ビッシーが顎で彼女の方を指す。
飯を詰まらせそうになりながら、素っとぼけてみる。
「授業中ずっとユッキーばっか見てたやろが」
「……」
むむむ、真後ろのビッシーには丸分かりだったか。まったく気にしてなかったわ。
そりゃ俺だって彼女を見たいさ、ものすごく。
だけど……。
なんか急に顔が火照ってくる。
あかん熱出てきた。
「お、俺、ちょい涼んでくるわ」
去年設置されたばかりのクーラーのおかげで教室内は快適に涼しいはずなのだが。
食いかけの握り飯を手に、ふらふらと廊下へ出て窓にもたれる。
焦点の合わない頭でぼけっと外を眺めているうちにチャイムがなった。
通りがかった先生に「こら、そんなとこでなん食っちょるんか!」と怒られ、あわてて握り飯をポケットに突っ込んで教室に戻った。
五時間目も、またついつい彼女の後ろ姿に目が行ってしまう。
彼女を見ていると、ビッシーだろうが誰だろうが、なんと思われようとどうでもよくなってくる。
ただふわふわと幸せな気分だった。
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