第313話 運命に抗う者
「……僕も、聖天珠を宿したことで日向と互角に戦える力を得たにも関わらず、最後の最後で墜ちてゆく彼の手を取り損ねてしまいました。日向は望まぬ運命を強いられた哀れな男でした。
彼を救うことで、捻じれ、縺れてしまったこの運命に終止符を打てる。それが僕の使命でもあったのに……なんとも手放しでは喜べない勝利でした。街は救ったけど友達を助けられなかった。それどころか最後の最後に助けてくれた。
その事実を受け入れられず、埋めようのない心の穴をどうすることも出来ず悲嘆に暮れ、もうこのまま捕まっても良いやと開き直って警察に出頭しようとしたところで、岩嶺さんに窘められて思い留まりました。
その後も岩嶺さんが献身的に世話をしてくださったお蔭でどうにか回復しましたが、療養生活を終えても心が晴れず今に至ります。未だに考えてしまうんです。日向を救いに行かなくて本当に良かったのかって。自分の行動が間違っていたんじゃないかって」複雑な表情を浮かべ、やり切れない様子の洸太だった。
「大切な者を喪うほど悲しいものは無い。かく言う私も友を失っているから君の気持ちは分かっているつもりだ。私も時々分からなくなる時がある。本当に逃げる以外の選択肢は無かったのか、友を見捨てるべきではなかったのか、と。
アンゼルが命を賭してくれたお蔭で聖天珠が賊に奪われずに済んだ。そして君と出会い、聖天珠を託すことが出来た。つまりあの時の私の選択はある意味正しかったということだ」
「正しかったかどうかを決めるのは未来の自分自身……ですか」
「あの時の君の決断が間違っていなかったと思える日が、きっといつかこの先訪れるだろう。別に友の死を軽んじるわけではないが、自分の選択が間違いではなかったと信じて前を向いて進むしかない。私はそう思う」そう諭す彼の言葉を聞いて洸太は何かを思い出してハッとする。
「そういえば日向も同じようなことを言ってくれました。『お前は、こんなところで死ぬべきじゃない。その力でこれからもたくさんの命を救うべきだ。だから俺のことは気にせず前を向いて生きろ』と。そう言われたところでパッと切り替えられる精神状態じゃない。
事件から数カ月が経ったけどまだ心の傷が癒えていないわけですし、これからどうすれば良いのか正直分からない。でも、あの出来事を乗り越えられるように少しずつ前向きに生きていこうと思います」
「きっと乗り越えられるさ。これから迎えるであろうあらゆる試練や艱難辛苦さえも。何故なら君は、偉大なる宇宙の神、ニーヴェ様に認められて聖天珠を宿し、ネオナイトになる者だからな」そう励まされた洸太は今一度決意を表明する。
「僕は光守洸太。実母と里親、二人の母親に育てられ、宇宙の創り主であるニーヴェより授かったこの力を使い、様々な想いを胸に秘めて罪を背負いながら、大切な人々や人類を護るために闘います」
その並々ならぬ決意は、実母である永守裕子と育て親の光山礼華への感謝であるとともに、アンゼルやキリス、茜、そして雅人の想いを紡ぎ、運命に抗うという運命を受け入れ、そしてネオナイトになるために、これからの闘いに身を投じていくのであった。
完
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