第310話 十年越しの告白

 だからこそ、今になってこうして再び会えたことにきっと何か意味があるのかもしれない。今こそ、本当の意味で彼女を救うべきなのだろう。


 しかし、今までの人生において茜以外の異性との交流は皆無だった。ましてや恋心を抱いたことなんて一度もなかった自分が、何をどうすればいいのか分からない。


 どんなことをすれば彼女を救えるのだろうか。その時、一つの言葉が頭に浮かんだ。それはごくありふれた何気ない言葉で、ある特定の状況にのみ物凄く重要な意味を持つ。その特定の状況とはまさに今のようなシチュエーションのことだ。


 それは同時に、洸太が伝えるべき言葉であり、ずっと言えなかった言葉でもある。だが、どう言えば良いのか分からない。今さっきパッと思い付いただけで、練習なんてしたこともなければ、かっこいい服装で決まって来てもいない。


 その上、その言葉を伝えるには、もっと適した場所と雰囲気を整えるべきではないのかと内心焦った。そもそも本当にこの言葉を口にして良いものかどうか悩んでしまう。


 いや、冷静になってみたら、そもそも受け入れてもらえるかどうかなんて関係ないのではないかと思った。決して下心のために言うのではなく、あくまで茜を救うために言う。


 そうしてお互い向き直って、彼女の目をまっすぐ見る。


 よくある恋愛ドラマや漫画にあるような、男が放つ甘くてキュンとするようなかっこいい台詞なんていらない。わざわざかっこつける必要もない。茜への思いを今思い浮かんだ言葉に乗せて、飾らない、ありのままで自分らしくストレートに伝える。


「茜、これまで離れ離れだったけど、これからはずっと一緒にいたいと思ってる。ずっと傍で支えて、どんなことがあっても守っていきたい。だから、遅くなってごめん。君が好きだ」


 これからは、自分と一緒にいる間は、嫌なことは一旦忘れて心の底から笑っていてほしい。そんな思いを込めて茜に伝えた。洸太の思わぬ告白に、茜は先ほど見せた悲しみの涙ではなくうれし涙を流し始め、コクリと小さく頷く。


 そして「うん……私も……」と消え入りそうな小さな声でそう言い、今度は自分からハグしてきた。洸太もそんな茜を優しく、そしてもう二度と離さないようにギュッと抱きしめる。この公園で初めて会ってから約十数年という長い年月を経て、二人は漸く結ばれた。


 つい最近になってから茜とこうして会話を交わすようになったこともあって、人の、特に女性の気持ちを推し量るのにどうしても難儀してしまう。心情を読み取って適切な対応が取れずに空回りして怒らせてしまったり、幻滅されたりしてなかなか理解してもらえず苦労するだろう。


 今はまだいい人止まりのただの初恋の人だというハンデがあるが、ここで慢心せず気の置けない関係を築いていけるように、時には話を傾聴して共感したり、悩みごとや困りごとがあった際はその都度助言をしたり、そして勿論彼女に何かあったらまっすぐ駆けつけて助けたり、そうやって常に寄り添って心の距離が縮まるように茜の言動をよく観察して本音を見極めていけば、いつか本当の意味での恋人同士になれるように出来ることは精一杯努力していくつもりだ。

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