第308話 後悔と謝罪

「それで城崎のことを……」


「うん……今思えば、とんでもない勘違いだったけど、私ったら城崎真の名前に『まこ』って付いてたからって、真のことを初恋の人だって勝手に運命を感じてときめいちゃって。


本当はと光山洸太の『まこ』なのに。それで彼の都合のいいように散々利用されてたけど、別に良かった。だってあたしの初恋の人なんだって信じてたし、そう簡単にこの想いを捨てるわけにはいかなかったから。でも結局、真はあたしのこと全然見てくれなかった。


あの時洸太が言ってた通り、やっぱり一方通行だった。ただ自分の理想を押し付けていただけだった。今思えば何で彼に惚れたんだろうね。あたしって人を見る目無いかもね」と自虐的に話す茜に対し、洸太が「そんなことないよ」と咄嗟に否定する。


「あの日、この公園で茜のことを助けたことを覚えていれば、茜がこんなことに巻き込まれて惨めな思いをせずに済んだのに……すぐに会って謝りたかったけど、今はそっとしておいた方が良いだろうなって思ってたし、どんな顔をして会いに行けば良いのか分からなかったから暫く時間を空けることしたんだ……本当に、本当に申し訳ない」


 と初対面の記憶を長年忘れていた悔悟を交えつつ、会えなかった理由を説明して精一杯の気持ちを込めて謝罪した。


「お互い随分遠回りしちゃったね。確かに災難の連続だったけど、それがあったからこそ、ずっと探し続けていた『まこ』って付いてる名前の人にやっと再会したんだし。


まさか洸太がそうだったなんて最初は信じられなかったけど、言葉と声が一緒だと分かって、それでハッとなって自分の中にスッと落とし込めた。これまで過ごしてきた時間と労力にちゃんと意味があったんだなって思えた。


もう何もかも無駄だと諦めてもう死んでも良いかなって考えてたけど、死ななくて本当に良かった。こうしてやっと、初めて出会ったこの公園に一緒に来れた。それもこれも洸太がずっと傍にいてくれたお蔭だよ。だから平気」


「茜……」寛大な答えに驚きを隠せなかった。


 精神を病んでもおかしくないほどの強烈で凄惨な体験をしてきたにも関わらず、それでも強く前向きにでいようとする茜の姿勢が、なんだか無理をしているように見えてきて洸太は、胸を締め付けられる思いに駆られた。茜は更に続ける。


「それに、謝るのは私の方。この間、ネオテックの部屋で会話してた時、洸太が何か目的があるって言ってそれに対して、私がくだらないって言って馬鹿にしたでしょ? 何も知らないとはいえ、あんな酷いこと言ってごめんね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る