第270話 道連れ
されるがままに引き寄せられていくうちに、彼はこれを好機としてこの引っ張られる力を利用し、攻撃に転じることにした。
振り返って浩紀との距離を詰めたところで杖を勢いよく振り下ろすも、それを読んでいたかのように難なく躱されてしまう。驚いて目を見張ると、首の後ろに強烈な肘打ちを食らってしまった。
衝撃と痛みでキリスが怯んで前に倒れ込むと、浩紀が近づいて纏わりつくように身体を密着させて間を置かず首に片腕を回してもう一方の腕の上腕あたりを抵抗されても離れられないようにガシッと掴んで首を絞めた。
キリスは首を絞められて息苦しそうにしており、負傷している上に締め付ける力が強くて思うように解けない。揺れは尚も続いており、大小様々な石が山の斜面を転がり落ちて二人の横を素通りしていく。
「詰めが甘いな!」
「どういう、つもりだ……うぅっ!」
「言っただろう。日向のところへは行かせないと。あんたは僕と共にここで心中だ!」と道連れにする気満々だった。
「うぐっ……」
「向こうもそろそろ決着がつく頃だろう。さて、あなたが希望を託した少年は果たしてどうなるのかな?」と浩紀が耳元近くで囁くように言った。
「私は……洸太君を、信じる……」キリスは首を強く絞めつけられて苦しそうな表情を浮かべても尚、希望を捨てるつもりなど毛頭無いようだ。
「往生際が悪いぞ。あなたが目をかけて修行を付けた光山は日向との戦いに虚しく敗れ、あいつに託した希望とやらも儚く散り、我々の計画が漸く実を結ぶことになる」
「くっ……」短絡的過ぎる考えに賛同と共感を求める浩紀に呆れている様子だった。浩紀は調子づいて続ける。
「想像しろ! 何百万もの人間が業火に焼かれる阿鼻叫喚の地獄絵図を。そして後悔するんだ。絶対に爆発を阻止すると信じて闘ったあなた方は、誰一人救えなかったと絶望しながら死んでいくんだ!」声高らかに笑う。
この数分の間に病院が面する山の斜面がちょっとずつ移動していたのが、ここへきて辺り一帯の地盤が緩んで堰を切ったように一気に滑落してきた。大量の土砂が轟音を立てて津波のように押し寄せてくる。
「うおああああああ!」
キリスは首を絞めつけられた状態のまま絶叫して浩紀とともに土砂に呑み込まれてしまった。
浩紀が起こしたこの大規模な地滑りにより、病院が地面の中に完全に埋もれて見えなくなっただけでなく、この辺り一帯の地形をも一変してしまった。
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