第269話 最後の一手

「くっ、おのれ……」と浩紀が不貞腐れた様子で漏らす。咄嗟に顔面を硬い物質に変質させていたお蔭で痛みは抑えられたものの、衝撃で視界が今も若干揺れている。


 我としたことが、勝ち気になって饒舌になってしまった。警戒を怠るべきじゃなかった。不利な状況にも関わらずそれでも強気の姿勢を崩さなかったのは、この状況を打破できる策を用意していたからだった。


 その上躱せるだけの余裕もなく、両腕をがっちり掴まれているこの体勢では顔面への直撃は免れなかった。飛びそうになる意識を何とか保って徐に立ち上がる。


「感謝する。貴様が気分よく話している間に隙を突くことが出来た」


「ふん、見事に虚を突かれたよ。しかしこれでお互い万策尽きた上にボロボロだ。ここで一旦休戦するっていうのはどうだい? ともに特等席で実験の行方を見届けようじゃないか」


「フン、笑止千万だな。言った筈だ。貴様らの計画は失敗に終わると。貴様はここで私に倒され、洸太君は貴様と行動を共にしたあの少年との戦いを制するだろう」


「やはりあなたは、本当に融通が利かないな」と呆れた風に言った後、それを合図に地震が発生した。


 木々が揺れ、「ゴオオオオオ」という地鳴りが聞こえてくる程に揺れの大きさが次第に増していき、広範囲に広がっていく。


「一体、何が……」


「この山の至るところに設置しておいた時限爆弾を起爆させた。万が一の事態に備えてね。僕とあなたの戦闘が始まった瞬間に秒読みを開始するように予め設定しておいたんだ」と戸惑うキリスに浩紀は親切に答える。


 浩紀の説明通り、病院周辺の地中に張り巡らすように埋めておいた爆弾を起爆して大規模な地滑りを起こして、病院もろ共生き埋めにしようという算段だった。


 まるで頃合いを見計らったかのようにタイミングよく爆発したかのようで、魂胆を知ったキリスは、一目散にその場を後にしようと身体を宙に浮かせたその時、浩紀の念力に捕まって引き寄せられてしまう。


 体力が底をついた上に重傷を負った状態では浩紀の念力には抗えなかった。

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