第268話 人類の行く末
「だから、これから行われる虐殺は必要であると……?」
「ああ。その手始めに企てたこの計画だ。これは虐殺ではなく応急処置だ。人類が少しでも長く生き延びるためのね。とはいえ、人間は高度な知能を有しているくせに過ちから何も学ばない馬鹿な種族だからな。
例え数を減らしたところで、また同じことが繰り返されるだけだ。この際だ、いっそのこと一人残らず根絶やしにしてやった方が、地球としては清々するだろうね!」
「そのためにあの街の人間たちを滅ぼそうというのか。フン、黙って聞いていれば聞くに堪えない暴論だな。生憎、それを容認できるほど愚かではない。私は長い時間をかけて、この惑星の人類という種を理解しようと様々な場所を駆け巡った。
そこで出会った人々と触れ合い、一緒に過ごしていく中で彼らの生活やその日その日の行動をこの目で間近で見て、聞いて、触れて、味わって、感じて、学び、理解しようと努めた。勿論、出会った人たちの中で道を踏み外して悪事を働く者たちもいる。
しかしそれはごく少数だ。貧困やそういった者達の込み入った事情がそうさせているだけで、決して性根が腐っているというわけではない」
「つまり、この地球に生きる人達の中に悪い人は存在しない。そう言いたいのか」
「ああ。それぞれの幸福を味わうことが出来るような環境と体制さえ整えば、悪に走る人間はきっといなくなるだろう。生まれながらに悪に染まっている人間などいないのさ。人間という民族はまだまだ捨てたものじゃない!」
「そうやっていくら人間を肯定したところで、人類が滅亡する運命に変わりはないのだ! 僕の計画によってね!」
「それでも、貴様が決めることではない」と言うと、右手で身体に刺さっている腕を掴み、左手で浩紀の首を離さないようにがっちり掴んだ。
「何のマネだ」
「人類の行く末は、彼らの種族で考えて決める……貴様が勝手に決めるなぁ!」と、力強く叫んでキリスが頭を下げて出来るだけ姿勢を低くした。
そんな彼を怪しんで前を向きなおした瞬間、浩紀は面食らった。どこかから杖が高速に回転しながら猛スピードで飛んできていた。気付いた時には既に目の前まで迫っており、回避する間も無く顔面に直撃する。
衝撃で病院の方へ大きく突き飛ばされ、その拍子に彼の胸部に刺さっていた腕も引き抜かれ、そして地面を数回転がった後に倒れ込んだ。勢いよく引き抜かれたため、あまりの痛さにたまらず「ううっ」と唸るように発して、その場で力なくしゃがみ込む。
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