第267話 人間はウィルスか

「ぐはっ!」と発したと同時に吐血する。


 強烈な頭突きを受けて、頭が割れるような痛みに襲われてよろめいたせいで身動きが取れず、本来ならば余裕で避けられる筈の攻撃も受ける羽目になってしまった。そして彼が手放した杖を浩紀が咄嗟に遠くへ蹴り飛ばす。


「フン。泣く子も黙る天下のエテルネルが、こうして肉迫されるなんて滑稽だな!」


 腕を刺し込んだまま浩紀が吐き捨てる。浩紀の言う通り、まさかこんな形で追い詰められるとは夢にも思わなかった。窮鼠猫を嚙むとはこういうことかと思い知らされる。


「ううっ……」頭の痛みに加え、胸部の刺し傷から大量の血が流れ出て下半身を伝って地面を真っ赤に染めていく。


「折角ゆっくりおしゃべりする時間を設けたというのに、逃げるなんて勝手すぎるよ。それとも、訊きたいことはひとまず訊けたから僕との会話を放棄すると? ならば今度は僕の質問に答えてもらおうか」


「くっ……貴様の、質問に答える道理は……無い!」と胸部の痛みに耐えながら怒気を込めて浩紀の要求を撥ねつける。


「あなたは何故そこまでして戦おうとする。人間というのは、あなたがそこまでボロボロになってまで守る程の価値があると本気で思っているのか?」


「なん、だと……?」


「宇宙の時間を二十四時間とした場合、人間の歴史などたったの一秒にも満たない。大局的に見れば、こんなちっぽけな惑星が一つ滅びたところで、不利益なんて少しも生じないだろ。形あるものはいつか必ず無に帰すのさ。諸行無常だ」


「それはニーヴェ様の意思で決められるのであって、貴様が勝手に決める筋合いは無い。この惑星は、宇宙にある幾億も輝く星の一つだ。決して絶やしてなるものか」


「では百歩譲ってこの惑星を残したとしよう。その小さな惑星の上に存在する人類という種は、地球という一つの生命にとって有害な存在となってしまった。歴史がそれを証明している」


 お互いの呼吸を感じ取れるほどの至近距離で睨み合う二人。こうしている間にもキリスの胸部の傷口から血が流れ出る。浩紀は一呼吸置いてから続ける。


「地球に住まわせてもらっているだけの身分で、まるで神のように振る舞い、限りある資源を使い果たし、汚すだけ汚しまくって、惑星全体の環境を都合のいいように変えてしまった。


自分たちの活動が、この地球に害を及ぼすことを見て見ぬふりをして今日も人間は数を増やし、生息範囲を拡張して汚していく。まるでウィルスだ。本来の生物の進化から大きく外れている。そう、人間は最早この惑星を蝕んでいくウィルスと化してしまった。途轍もない速さで増殖し、肉体を貪り、食い尽くすまで止まらない。


このまま人間の人口が指数関数的に増加していくこの現状では、宿主であるこの地球をも死なせてしまい、共に滅亡を迎えることになるだろう。それを防ぐためには、この辺で人間の数を減らして双方のバランスを取ることが賢明だと思わないか?」

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