第266話 然るべき裁き

「ならば私がなんとかする」


「今更行ったところでどうにかなると本気で思っているのか。今言った筈だ。あんたが行ったところでどうせ何も出来やしない。何も変わりやしないのさ。それに、あの爆弾を守っているのは日向だ。例えあんたが加勢に行ったとしても焼け石に水だろうけどね」


「そのためにあの少年にオーブを宿して力を開花させたというのか! エテルネル族でもない貴様が!」


「エテルネル族以外使ってはならない神秘の力と言ったか。だとすれば言ってることとやってることが矛盾しているな。そういうあんたも光山にスキルの源となるオーブを譲渡していた時点で説得力は皆無だ。


仮にスキルを手にしたことがエテルネル族に対する冒涜であると目くじらを立てようが、いずれ誰もが簡単にスキルを手に入れる時がやってくるさ。いや、もう来ているのかもしれない」


 それを聞いたキリスは、掴んでいた胸倉を突き飛ばすように勢いよく離して浩紀は仰向けになって倒れた。


「くっ……貴様の犯した罪は重い。無論、貴様がスキルを譲渡したあの少年も同罪だ。然るべき裁きを受けてもらうぞ」哀れみを込めて言った後、背を向けて飛ぶ姿勢に入った。


「そういうあなたこそ何様のつもりだ。罪だとか罰だとか、そんなのは所詮あなたの主観でしかない。あなたの身勝手な正義漢で決めたことだ。一つ教えておこう。正義と悪の見方は千差万別だ。もし裁きたいのならば、『その惑星で決められた法や規律に従え』。そう教わらなかったのか? エテルネル族のキリス」


「何故、私の名を……」と戸惑いを隠せないでいた。


 浩紀とはこれまで何度も対峙してきたが、その最中で一度たりとも名前を教えたことなど無かった。キリスは再び浩紀を問い質そうと振り返ったその時、浩紀の姿は無くいつの間にか消えていた。


「しまった、うっ!」


 次の瞬間、「ゴンッ!」と何か硬いものが額に強く当たり、激痛が走り、あまりの衝撃と痛みで後ろに倒れてしまう。


 軽い脳震盪を起こしてしまい、視界が上下左右に揺れ動く中、まるで被っていた透明のマントを脱ぎ捨てるように目の前に浩紀の姿が出現した。問答している間に姿を晦ませて近づき、額を金属のような硬いものに変質させて、躱す間も与えない程の猛スピードで頭突きしてきたのだった。


「日向の元へは行かせないぞぉ!」


 浩紀の強烈な頭突きを受けて悶絶しているキリスだったが、浩紀は情け容赦せず服の襟を鷲掴みにして無理矢理立ち上がらせると、鋭利な刃物に変質させた腕で腹部を勢いよく刺した。それは、体力が底をついてしまった浩紀が取った大胆な手段だった。

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