第265話 起爆装置

「貴様の敗北は目に見えている」


「うっ……くそぉ!」とうつ伏せの状態で悶絶しながら無念そうに叫ぶ。


「このまま大人しく降参してくれれば命までは取らない。だから、もう観念しろ」


「ま、まだだ……まだ何も終わっちゃいない。始まってすらいない。これからだ!」


「これ以上続けたら命を落とすことになるぞ」


「それならそれで結構だ。だが、まだ死ぬわけにはいかない。これから壮大な実験が始まるんだ。それを見届けずして死ねるものか!」と怒気を込めてそう叫ぶと、履いているズボンのポケットの中から起爆スイッチを取り出す。


「なっ、そんな……」とスイッチを見て目を疑った。彼との戦いの衝撃で故障していて全く機能しておらず、それを見たキリスも心配事が杞憂に終わってホッと胸を撫で下ろす。


「押すべき装置も壊れてしまった。その身体では立つことすらままならない上に両手も砕かれている。貴様らの計画も失敗に終わったも同然だ」そう告げたキリスに対して浩紀は背を丸めて蹲ったかと思うと、くすくすと笑い始めた。


「何がおかしい」


「あなたは何か勘違いをしているようだ。起爆スイッチを押すには何も物理的な方法だけとは限らない。やり方などいくらでもある」そう言うと、浩紀が既に壊れていたスイッチを握り潰した。


 グシャッという音を立てて小さく丸まっていき、そして地面に落ちる。もはや起爆装置の面影すらなくなるほど原形を留めていない。


「どういう意味だ」


「確かに起爆装置を押せば爆弾は爆発するが、スイッチが何らかの拍子で壊れてしまったり、誰かに奪われたりすれば遠隔での起爆は出来なくなる。そしてこのスイッチはもうただのゴミだ。そこで僕は、こうなることを想定した上で予め別の方法を採用したのさ。その方法というのが、時限式だ」


「時限式だと!?」


「ああ。それなら遠隔操作出来ずとも、定刻になれば勝手に爆発する。さっき十五分に設定しておいたから、あと残り五分といったところか」


「しかも既に作動していたとは……」


「念には念を入れたまでだ。僕はこう見えて用心深いのさ。計画を進めるにあたって不確定要素を少しでも減らして失敗するリスクを極力下げるように常に心掛けている。物事を確実に成功させるためにね。実験なら尚更だ!」


「貴様、初めから!」


「さあどうする。爆発の瞬間までのんびりおしゃべりでもするかい?」と開き直ったた様子で訊いた。


「黙れ。今すぐ秒読みを止めろ」と浩紀に近づいて胸倉を掴み、命令口調で言った。


「残念だが、それは聞き入れられない注文だな。あの爆弾は特殊だ。一度カウントダウンが始まれば止められる術はない」

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