第264話 奇襲
≪くっ……体の内側に、二発も……これが、セプテントリオンの力……何という強さだ。まるで歯が立たない……とはいえ、こうしてエテルネル族最強と謳われた者たちの一角と拳を交えただけでも、貴重な体験となった。有難い≫
あまりの痛さに声が出ない上に息もしづらく、呼吸困難になりかけたほどだった。そんな浩紀を見下ろしながらキリスがゆっくり降臨してきた。
「何て、ことだ……この僕が、こんな目に遭うなんて」
「驚いたな。先程の技を二発も食らって満身創痍になっているにも関わらず、まだ喋れるだけの力が残っていたとは。しかし、確かに手応えはあまり感じられなかったな」
「うっ……そりゃそうだ。胸部を鋼鉄に変質させたからな……それに一応、適合者だからね。身体は結構頑丈に出来ているのさ。それにしても、こんな少年を相手に本気を出すなんて、あんたも本当に容赦ないな……」と、どうにか砕かれた両手を使わないで苦しそうに立ち上がる。
「こうでもしなければ、貴様を打ち負かすことが出来ないと思ったからだ。どうだ、鼻っ柱をへし折られた気分は」
「頗る不愉快さ……こんなことになるなんて、全く意図していなかったもんでね」
「随分弱気だな。漸く降参する気になったか?」
「降参。この僕が? フン、冗談じゃあない。僕は一度やると決めたら最後までやらないと気が済まない性質なのだからね」と告げると、浩紀の身体が空気に溶け込んで姿を消した。
「なっ、どこだ!」と、たまらず前後左右に視線を忙しなく動かして浩紀を探す。
精体反応を感じられず、今どこにいるのかさえ分からない。以前対峙した時も、そうして姿を晦ませて逃げられた。
今回もまた敵前逃亡を図ったのだろうか。それは考えられない。今回奴は何が何でも私を抹殺する気でいる。空気に紛れて奇襲をかけるつもりだろう。となれば、手あたり次第に攻撃しても意味が無い。
きっと私が動揺している隙を狙って来るに違いない。ならばここは何もしない方が賢明だ。それで奴は私が探すのを諦めたと読んで実体化して襲い掛かって来る。その瞬間奴の位置が分かるため、攻撃が通用するだろう。
それから目を閉じ思考を止め、五感を尖らせて集中力を高めて、ほんの僅かな振動や空気の揺らぎを感知して浩紀の現在地を探る。
次の瞬間、背後の空気が僅かに揺れたかと思うと、彼に感付かれないように浩紀が右腕を鋭利な刃物に変質させてキリス目がけて突き出した。予測通り、浩紀が身体を実体化させて突き刺そうとしてきた。
≪そこだ!≫
これで浩紀の位置が分かったキリスは、目を開けて瞬時に側転しながら横に跳んで回避して着地したと同時に、いつでも斬りかかる体勢を取った武士のように、両手で杖の柄を持って構える。
「なっ、そんな馬鹿な……どうして攻撃が外れたんだ? タイミングも完璧だった筈なのに!」
そして空気と同化して奇襲することに失敗した浩紀が怯んでしまう。その隙に、驚異的な速度で接近して、抜刀した剣を勢いよく振るう剣士のように「フンッ」と力んで杖を全力で振った。
「ううっ!」と側頭部に直撃し、浩紀が苦しそうに発して勢いよく地面を転がっていった。
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