第261話 壮大な実験

「何が望みだ。そんな姿になってまで一体何をしようとしている!」


「実験だよ」とキリスが振り下ろす杖を躱しながら小さい声でボソッと答えた。


「何?」


「何も知らない被検体たちを一か所に集めて、そこで核爆弾を爆発させたら果たして生き延びることが可能かどうかを調べること」と続けて答えると、近くに長く伸びていた樹木を引き抜いて、矛のように上から下に叩き付けるように振り払った。もとよりキリスは後ろへ跳んで余裕で躱す。


「被検体とは、洸太のことか?」

 

 キリスは杖を振り下ろしては防ぎ、浩紀は杖をいなしてパンチを繰り出すも結局防がれるという一進一退の猛烈な攻防が続く。両者の激しい攻防が繰り広げられているにも関わらず、浩紀はいたって冷静に彼の問いに答える。


「彼だけじゃない。倉本陽助や日向雅人といった適合者全員が対象だ。倉本が本部に内緒で、人体実験及び人に放射線を浴びせる実験を度々行っていると知った時、奴らは近々大規模な実験を行うのではないかと僕は推測し、それを利用させてもらったまで」


「そのために体得したスキルを行使して、こんな辺鄙な惑星でそんな大それたことを実行していたのか!」念力で引き寄せられる浩紀の身体に杖を突こうとしたが、硬質化させた両腕の甲で防がれる。


「そうだ。本当はそれこそ段取りを立てて要領良く行うつもりだった。しかし、色々とイレギュラーな事象が発生していくうちに急遽予定を変更せざるを得なくなった。だがそれも悪くないだろう。


とりわけ光山がオーブを宿して、更なる力に目覚めたのはまさに棚から牡丹餅だった。能力に覚醒した彼等が殺し合いをし、瀕死になったところで核爆弾を起動する」


 杖を払い、防御から攻撃に転じて相手の腹に蹴りを入れてそのままタックルを決めて突き飛ばした。


「うっ、それが貴様の言う科学か。命を冒涜することが科学だとでも!?」


「あんたの観点から見ればそう捉えるだろう。だが、多大な利益を生んで科学技術ひいては社会の発展に大きく貢献できるのならば、それでもやらざるを得ない場合もあるのだ。その内容がどんなに惨たらしくても、多少なりとも目を瞑ってくれるものさ」


 浩紀が卓越した念力制御で、周囲に生い茂る樹木を何本も引き抜いて槍投げ選手のようにキリスを目がけて投げ打つ。


「そんなことが許されるとでも思っているのか!」と飛んで来た大木を華麗にいなしながら怒気を込めて叫んだ。


「頑固な奴だな。だからこそ実験と称しているだろう。確率の問題だ。生き残れば成功、死ねば失敗するだけだ。失敗すればまた違った方法を模索してやり直せばいい」


 と、土の中から掘り出した巨大な岩を相手に狙いを定めて、プロ野球選手のように勢いよく投擲する。


「一体どれほどの無辜な命を弄べば気が済むのだ。少なくとも、貴様のやろうとしていることは実験でも何でもない。科学とは名ばかりのただの虐殺だ!」弾丸の如く高速で投げられた巨岩を杖の先で突いて粉砕した。


「今更何を言っても無駄だぞ。然るべき舞台が整い、役者も揃った。もう誰にも止められはしない。絶望する間も無く自らの生み出した兵器によって灼かれて死んでいく。ここから始まるのだよ、史上類を見ない、白亜紀末期以来の大量絶滅が!」と両手を広げて声高らかに叫んだ。

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