第260話 水と油
「うわっ!」と発して後方へ勢いよく飛んで仰向けに倒れた。顔に手を当てて悶絶していると、浩紀が目にも留まらぬ速さで目前まで迫ってきていたことに気付いて驚愕する。
浩紀の右腕がショックブラスターの銃口のような形に変質しており、凶々しい笑顔を見せて撃つ姿勢を取っている。次の瞬間、撃ち込まれたのは凝縮された衝撃波だった。避ける間も無く至近距離で衝撃波を食らったキリスが轟音とともに凄まじい速度で後方へ煽られていき、木々を薙ぎ倒しながら地面を転がっていった。
「リミッターが外れたとはいえ、今の状態のままではこれが限界か」元の形状に戻った右腕を見ながらボソッと呟くように言ってキリスが飛んでいった方角へ視線を移した。荒くなった呼吸を整えるように深呼吸を繰り返して酸素を取り込む。
舞い上がる土煙の中から影が浮かび上がり、やがて姿がはっきり見えてきた。何ともなかった様子で立ち尽くしている彼を見て浩紀は全く動じず、やはりなと言わんばかりの表情を浮かべただけだった。
渾身の一撃だったにもかかわらず、手応えを感じたように思えなかったのは、衝撃波を打ち込んだ瞬間に念力で咄嗟にガードされてしまい、思いの外ダメージを与えられなかったからだった。
「参ったな。ある程度の力の差を覚悟してたけど、まさかここまでとはね。このままじゃ埒が明かないよ」とキリスの並外れた強さを前に浩紀は弱音を吐いたが、まだ余裕が感じられるような言い方だった。
「今の力もスキルによるものか。まさか、廃墟での戦闘で精体反応が消失したように見えたのも」
「炎に一旦『変身』して撤退を図り態勢を立て直したのさ。僕の能力は有機体であろうが無機物であろうが関係なく、その対象となるものの体構造を瞬時に解析して自分の中に取り込んで変身を遂げることが出来る訳だ。まあ、いくら能書きを垂れたところで到底理解できないだろうけどね」
「スキルにそんな驚くべき特性があったとは……」
「これはあくまで僕の変身能力に限った話だ。スキルというのは極めていけば、電気や炎、氷といったその者の個性や性格を最大限に生かした独自の能力を開花出来る。進化とでも言うべきか。スキルを手にすることで、それまでの生命としての理を超越することが可能なのだ。
それもこれもひとえにあの方がスキルに無限の可能性を見出し、長年に渡る研究の末に汎用性を引き出してくれたお蔭だ。それはまさしく偉業とも賞される成果と言っても過言ではない」
「何が偉業だ、ふざけるな。そんなものは進化とは呼ばない。これは紛れもなく我々エテルネル族いや、命に対する冒涜だ。決して許される筈が無いだろ」
「科学と宗教は言わば水と油。互いに相容れることなど未来永劫あり得ない。だからいくら批判を浴びせられたところで科学者は未知への追究を止めたりしない。それが飽くなき探求心を抱き続ける科学者の性というものだからな」
「どこからどうみても少年に見える貴様が科学者のようなことを語るとは笑えるな。まさか、それも仮初めの姿とでもいうのか!」彼の問いに浩紀はただニコッと嗤うだけで、「はい」とも取れるその邪悪な表情にキリスは怒り心頭になって猛進する。
浩紀も負けじと突撃し、激突した瞬間に衝撃波が周囲に打ち放たれて大気を揺らす。そして再び両者の肉弾戦が始まった。
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