第255話 迫る死の明星

「さあどうする」


「くっ……俺としたことが!」


 すっかり茜の存在を忘れていたことを悔やむ。いや、忘れていたというよりかは、あれ程遠く離れていれば巻き込まれないと思って、そこまで気に留めなかったと言った方が正しかった。


「俺が助けに行く!」


「よせ、それじゃ奴の思う壺だ!」


「もう俺たちに成す術は無いってのかよ……クソ、こんな時に光山がいてくれたら!」


 雅人の腹積もりを見抜いたところで臨機応変に対処できないだろう。二人の内どちらかが助けに向かえば、その瞬間に雅人の強力な念力で押し退けられてしまう。とはいえそのまま見過ごすわけにはいかない。どの選択を取っても雅人の手玉に取られるのは明白だった。


「まずい、このままじゃ市宮さんが危ないぜ!」まだ起きる様子が無い茜を見兼ねた陽助が正義感に駆られて助けに行くことを選び、念力を解除して引き下がった。


「待て、陽助!」と東が制するも、陽助が飛ぶ姿勢を取った途端に雅人がニヤッと白い歯を見せて、二人の連携が崩れたのを好機に念力のパワーを強めて押し込んでいく。隙を突かれ、車に猛スピードで轢かれるほどの衝撃が二人を襲い、あえなく突き飛ばされてしまった。


「うっ……しまった!」


 東は自分の受けたダメージより茜の方が気がかりだった。バッタのように今すぐ跳躍して助けに行きたかったが、念力を大量に消耗した反動で暫く動けないでいる。


 塊はまるで拳銃から発射された弾丸のように、目標である茜に向かって一直線に飛んでいく。二人を退けた雅人はその足で城崎の元へ直行する。


 東たちの戦いで鳴り響く轟音で気が付いた茜は、半開きの目で周りを見渡して大小様々な瓦礫や残骸に囲まれているのが分かった。暫く気を失っていたので記憶が途切れ途切れになっているが、城崎の母親が斬首され、そのショックで泣き喚いたことははっきり覚えていた。


 元カレを探しに行こうと考えた時、ヒュウウウと何かが飛んで来る音が聞こえてきてふと音がした方へ向くと目を見張った。瓦礫と鉄屑がぐちゃぐちゃに混合された雲丹に似た、トゲトゲした大きな塊が円弧を描くように飛来してきている。


 誤って飛ばしてきたのか、あるいは狙って放たれたものなのか考えても見当が付かなかったが、方向を変える様子もないことが分かると、落下する地点は今いる場所だろうと予想した。


 あんなものが直撃すれば間違いなく即死だろう。急いでその場から逃げなければと思ったが、全身を強打した影響で身体が思うように動かない。焦る気持ちとは裏腹に塊が段々近づいて来る。


 心なしか、速度が上がってきているように見える。

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