第254話 第二ラウンド
「何とか間に合ったな」と、ぐったりして意識を失っている城崎を見て言った。微かではあるが、脈拍と呼吸があることを確認してホッと胸を撫で下ろす。
その直後、雅人が天高く跳び上がり、物凄い速度で向かって来きているのが分かった。東が回し蹴りを繰り出した時も辛うじて腕で防御していたことから、さほどダメージを受けていないように見える。
再度城崎を安全なところへ避難させようとするが、雅人の狙いは城崎のため、どこまでも執念深く追撃してくるに違いないと踏んだ。
「邪魔をするなぁ!」怒りを剥き出しにしてそう叫びながら襲い掛かって来る雅人。ここで止めなければ今度こそ城崎は殺されてしまうだろうと考え、迎撃しようと構える東だった。
チョーカーを介して体内に流れるシャードの力で身体能力と念力を底上げしているとはいえ、背中と脇腹に負った傷のダメージが予想以上に大きく、十分な実力を発揮できるかどうか分からない。
それに対して雅人は、どのような訓練を経たのか全くの謎だが、以前対峙したときより格段に強くなっているため、果たして返り討ちに出来るか見当も付かなかった。
遂に両者がぶつかり合うと思われたその時、すんでのところで瓦礫の中から陽助が現れて猛スピードで雅人に体当たりを決めた。
「うっ!」と、怒涛の速さで走って来たトラックに撥ねられたような衝撃を受け、雅人の身体がまたしても彼方へ突き飛ばされてしまう。
「陽助、お前……」
「悪い、遅くなっちまった」
「療養で身体の動きが鈍くなってるぞ。病み上がりは無理せずそこで観戦でもしてろ」
「お前の方こそ、背中と脇腹を負傷してるくせに人のこと言えんのかよ。一人でカッコつけやがって。それにな、お前だけ美味しいところを独り占めさせるわけにはいかねえのさ」
「フッ、どうなっても知らないからな。とりあえず足手まといになるなよ、ほら」と倉本から受け取った最後のエキストリミスを陽助にあげた。
「へっ、やかましいぞ。それじゃあ、やってやろうぜ。久々の共闘になるな」と、貰ったエキストリミスを口に入れて飲み込む。
東は陽助が参戦してくれて満更でもない様子だった。こうして二人で協力して城崎を防衛することとなった。
「うっ……目障りな蠅どもめ。どいつもこいつもぞろぞろと出てきやがって」
「これでお前は不利になったな」
「お前らがいくら束になろうが同じだ!」
「俺たちを見くびってもらっちゃ困るよ。さあ、気を取り直して第二ラウンドだ」
「ほざけ!」
その刹那、東と陽助、雅人の三人が互いに強烈な念力をぶつけ合う。それぞれの念力がエネルギーの層となってその領域を支配し、互いを潰さんとする勢いで衝突し鬩ぎ合う。
地面に亀裂が迸り、轟音とともに台風並みの風圧を生み出して、周囲にあるあらゆる物を薙ぎ払っていった。東と陽助は力を合わせて対抗するも、雅人の打ち出す念力はそれよりも上回る強さを誇っていた。
三人が歯軋りするほどの激しい念力の消耗戦を繰り広げている中、雅人の横でいくつもの瓦礫や鉄屑が空中に浮かんだかと思えば、合体して一つの大きな塊を形成していった。ところどころ鉄屑や鉄パイプが突出していてどことなく不気味な形をしており、その歪で刺々しい見た目は、鎖の付いてないモーニングスターを思わせた。
「忘れたのか。人質がもう一人いるってことを!」と、言った直後に念力操作で浮かせていた塊を飛ばす。そうして大砲の弾のように高速で発射された塊が飛んでいった先は、遠くで横たわっていた茜だった。
「あの女は城崎の彼女だったなあ。だったら殺して損は無いだろう」
「まさか……やめろ!」
東が頭上を猛スピードで通り過ぎていく塊を目で追ったとき、雅人が言ったことを初めて理解した。
恐らく雅人は、二人の注意が自分に向いている間に茜を遠距離で攻撃することで、二人は真っ先に茜の元へ駆けつけるだろう。その間に無防備になった城崎を殺せると考えている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます