第146話 ネオナイト
「これは……」
「この宝珠は
「ネオナイト……?」
「エテルネル族の間で代々語り継がれている古の伝承で、この大いなる宇宙が混沌と絶望に満ち溢れた時、宇宙をあるべき形に改めるために、ニーヴェ様の化身として光臨し裁きを下す、全てを超越した伝説の聖なる使者だ。その力はセプテントリオンをも優に凌ぎ、時空にも干渉すると伝えられている」
「それ程の力が……さすがに僕には荷が重すぎます!」と洸太は思いがけず声を張って断る。ここで「はい分かりました」と言ってしまうのはあまりにも烏滸がましいと考えた。
宇宙を揺るがすほどの強大過ぎる力を手にすること自体恐れ多く、仮に手に入れたとして意のままにコントロールできるとは思えず、そう簡単に受け入れることは出来なかった。
「私の恩師はこうも言ってくれたのだ。この聖天珠をその身に宿し、その大いなる力を使いこなせる者を探せ、と。恩師である七賢星の頼みとあればそれを放棄するなど言語道断。与えられた使命は何があっても完遂する。そう胸に固く誓って果てしなく広い宇宙を駆け巡り、この地球に行き着いたのだからな」
キリスは今までこの貴重品を大事に抱えながら戦いに身を投じてきた。
そのハンデが無かったのなら、本来の力というのはきっとまだまだこんなものであるに違いないと考え、洸太は彼の圧倒的な存在感に改めて感銘を受けた。キリスは続ける。
「彼のあの尋常ならざる力は単にスキルを体得しただけで発揮できるものではない。もしこのセイントオーブと同等の力を持つ道具を身体に宿しているのであれば、今の洸太君では太刀打ちできないだろう。
それに君は、自分が面倒事に巻き込まれたくないが故に突き放した友が、力に目覚めて破壊の限りを尽くしていることに責任を感じており、自分の所為で闇に墜ちてしまった友を救いたいと考えている。真にその責務を全うしたいのなら、この聖天珠の力で以て対抗する他ない」
「……では、具体的に何をすればいいのですか?」
「案ずるな。生贄と言えど死ぬわけではない。これから行う洗礼奉祀でこの聖天珠を宿すのに相応しい者かどうか、ニーヴェ様に見定めていただくというものだ。成功すればニーヴェ様の比類なき強大な力を会得し、能力の更なる覚醒へと導くだろう」
「もし、この宝珠に認められず篩にかけられてしまったら……?」
「聖天珠の神々しい光に包まれて肉体は跡形もなく消滅する。実際にこの儀式を受けてきた者たちはそのような最期を遂げた。故に、一度も成功したことがない」
「そんな……」儀式の残酷さを知った洸太は愕然としてしまった。キリスが重々しい口調で語ったことで決して脅しなどではなく、本当にそうであることが痛いほど伝わった。
「一体何を基準に決めてくださるのか、受けてみなければ分からない。だから少しでも成功確率を上げるために、己の恐怖を克服してもらったというのもある」
「つまり、全ては神様のみぞ知るということですね。場合によってはそのまま消滅して死んでしまう……でも、それ以外に方法は無く、やってみるしかない……」
分かりやすく気を落とし、不安に圧し潰されそうになる。切迫した状況にあることは痛い程分かるが、それでもやはり死ぬのは怖い。そんな洸太の不安を見抜いたキリスが、洸太を励まそうと次のことを言った。
「一つ、私が大事にしている信条を教えておこう。やってみる、という言葉は出来なかったときや失敗したときの言い訳にしかならない。やるからには、必ず成功させてやるという絶対的な自信と前向きな姿勢で臨め。気持ちや意志薄弱な者に成し遂げられるものなど何も無いからな。そして私は信じている。君がこの儀式を無事に乗り越えられるということを」
「何故そこまで言えるのですか」
「約束したからさ。この聖天珠を宿すに適すると認めた者を命に代えて護り抜け。生き別れた友にそう言われて私は誓った。友との約束を必ず果たすと。そして君は、自分を長い間苦しめてきた恐怖と向き合って打ち克ち、母親が願って名付けた『洸太』という素晴らしい名前の通り、いつまでも光に溢れる人生を歩み始めようとしている。君こそ、この聖天珠を宿すに足る者であると私は見込んでいる。だから安心していい。何も心配することはない」
キリスが安心させるような視線を向けて洸太を見つめて断言した。
時は待ったなしに過ぎていく。躊躇っている余裕なんて無い。洸太は気持ちを入れ替えるように唾を飲みこみ、儀式を受けることを決意する。
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